「言葉を手がかりに」永井愛、上西充子著

公開日: 更新日:

〈アンケートをとれば、かなりの人数が反対しているわけですよね。だけど、最後は「しょうがないね」と諦めてしまう。この「しょうがないね」に政治家たちは賭けているんですよ〉(永井愛)

 これは元総理の国葬のことではなく、1年前の緊急事態宣言下でのオリンピック開催についての発言だ。わずか1年前のことなのに、また同じことをくり返そうとしている。これはとりもなおさず、第2次安倍政権発足以来、日本の政治と報道がいかに劣化を重ねてきたかの証左だろう。この劣化の根本には、曖昧な発言をくり返す政治家と、それを容認するメディアの「言葉」の問題が大きく関わっている。

 本書は「ザ・空気」シリーズなどで表現の自由に鋭い問いを投げかける劇作家・永井と「国会パブリックビューイング」の代表として国会の可視化に取り組んでいる上西が、言葉を手がかりにして現代日本の社会・政治の諸問題を解きほぐしていく。対談が行われたのは、東京オリンピック開催直前の21年7月中旬から閉幕直前の8月上旬にかけて。話題はおのずとオリンピックとそれを強行した菅政権、路線を継承させた安倍政権が中心になる。

 中身のない「引き延ばしの言葉」を羅列する安倍。政権発足直後に起きた日本学術会議の任命拒否問題において、「総合的・俯瞰的」という言葉をくり返し何も答えようとしない菅。そこには、上西が考案した、質問に対して論点をずらして答える「ご飯論法」が駆使されている。こうした無責任な答弁に対して有効な批判をし得ないマスメディアといった構図は現在の岸田政権においても変わっていない。

 オリンピックなんてもう古いよ、と思われるかもしれないが、〈「古い」という否定のしかたも、イメージ操作〉だと永井は指摘する。そうした操作にとらわれないためにも、言葉の本来の力を取り戻さねばならない。 <狸>

(集英社クリエイティブ 1760円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志氏はパチプロ時代の正義感どこへ…兵庫県知事選を巡る公選法違反疑惑で“キワモノ”扱い

  2. 2

    タラレバ吉高の髪型人気で…“永野ヘア女子”急増の珍現象

  3. 3

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 4

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  5. 5

    《#兵庫県恥ずかしい》斎藤元彦知事を巡り地方議員らが出しゃばり…本人不在の"暴走"に県民うんざり

  1. 6

    シーズン中“2度目の現役ドラフト”実施に現実味…トライアウトは形骸化し今年限りで廃止案

  2. 7

    兵庫県・斎藤元彦知事を待つ12.25百条委…「パー券押し売り」疑惑と「情報漏洩」問題でいよいよ窮地に

  3. 8

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 9

    大量にスタッフ辞め…長渕剛「10万人富士山ライブ」の後始末

  5. 10

    立花孝志氏の立件あるか?兵庫県知事選での斎藤元彦氏応援は「公選法違反の恐れアリ」と総務相答弁