「老子探究」 蜂屋邦夫著

公開日: 更新日:

「求めない──すると簡素な暮しになる」「求めない──すると心が静かになる」「求めない──するとひとから自由になる」……印象的なリフレインでつづられる加島祥造の「求めない」(2007年)は、詩集としては異例の46万部のベストセラーとなり大きな話題を呼んだ。加島は「老子」全81章の全訳創造詩「タオ-老子」も出しており、「求めない」にも老子の思想が深く刻まれていることはよく知られている。

 本書は、古来難解とされてきた「老子」という書物を老子研究の泰斗がさまざまな角度から読み解いていくもの。まずは実在の老子について。司馬遷の「史記」によれば、老子と思われる候補者は3人いて、最有力候補は老耼(ろうたん)。古代中国王朝・周の宮廷図書館の書記官で、孔子が周を訪れたときに老子の元を訪れ、礼について尋ねたという。もっとも、儒家の徳目主義を批判する形で老子が出てきたのであり、このエピソードは歴史上成り立たないそうだ。

 実像は曖昧なまま、時代を経るに従い、老子は神格化されていき、楊貴妃とのロマンスで有名な唐の玄宗は「老子」に傾倒し、自ら注を付した。では「老子」という本はいつ成立したのか。従来は唐代のテキストが最古だったが、1973年、馬王堆漢墓から絹に書かれた「老子」が発掘され、一気に紀元前200年前後まで時代が遡る。その後さらに古い時代の竹簡が出土するなど、研究は大きく進展。

「老子」の難解さは、簡潔な文章であるために解釈が多様なところにある。従って古来多くの注釈書が書かれ、また仏教の到来や現実政治の潮流などがその注釈に投影され、「老子」という書物のイメージも変転する。それでも、無為自然という「老子」の根本的な考えは揺るがない。例えば小国寡民という小さな国を理想とする考えは、現今の大国ロシアの横暴を真っすぐに突き刺すだろう。再び「老子」の時代が到来か。 <狸>

(岩波書店3410円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  2. 2
    「ダルよりすごい」ムキムキボディーに球団職員が仰天!プロ3、4年目で中田翔より打球を飛ばした

    「ダルよりすごい」ムキムキボディーに球団職員が仰天!プロ3、4年目で中田翔より打球を飛ばした

  3. 3
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  4. 4
    22年は尻回りが推定1.5倍に増大、投げても打ってもMLBトップクラスの数値を量産した

    22年は尻回りが推定1.5倍に増大、投げても打ってもMLBトップクラスの数値を量産した

  5. 5
    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

  1. 6
    橋下徹氏&吉村知事もう破れかぶれ?万博の赤字に初言及「大阪市・府で負担」の言いたい放題

    橋下徹氏&吉村知事もう破れかぶれ?万博の赤字に初言及「大阪市・府で負担」の言いたい放題

  2. 7
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  3. 8
    大谷の2023年は「打って投げて休みなし」…体が悲鳴を上げ、右肘靭帯がパンクした

    大谷の2023年は「打って投げて休みなし」…体が悲鳴を上げ、右肘靭帯がパンクした

  4. 9
    「横浜愛」貫いた筒香嘉智 巨人決定的報道後に「ベイスターズに戻ることに決めました」と報告された

    「横浜愛」貫いた筒香嘉智 巨人決定的報道後に「ベイスターズに戻ることに決めました」と報告された

  5. 10
    河野太郎大臣「私は関わっておりません」 コロナワクチン集団訴訟で責任問う声にXで回答…賛否飛び交う

    河野太郎大臣「私は関わっておりません」 コロナワクチン集団訴訟で責任問う声にXで回答…賛否飛び交う