「すごいトシヨリ散歩」池内紀、川本三郎著

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 ドイツ文学者でエッセイストの池内紀が亡くなったのは2019年8月30日。享年78。2016年3月から亡くなる直前まで3カ月に1回、評論家の川本三郎と対談を行い、それをまとめたのが本書。4歳下の川本によれば、2人の共通点は、子供時代、貧しかったから貧乏性なこと。ぜいたくが苦手。旅好きだが、高級旅館には泊まらずに、町の居酒屋で酒を飲む。パーティーや会議が苦手。ひとりでいる時間を大切にしたい。極端なアナログ人間で、原稿は手書き。そして、筆一本で生きようとしたこと──。

 そんな2人が最初に話題にしたのが「東京の味わい方」。一貫して東京に暮らす川本は70歳を過ぎてからは変貌著しい今の東京についていけなくなり、変化の少ない下町ばかり歩くようになったという。一方、姫路生まれで大学入学後は途中6年ほどの神戸、ウィーンでの中断を挟んで以後ずっと東京に暮らした池内は「半東京人」と称し、どんなに親しくなっても、東京はどこか未知の部分があって楽しい、と。

 旅の達人である2人はどちらも鉄道好き。車窓をゆっくり眺めながら目的地に行き、安宿に泊まって、路地裏を歩きながらその辺の食堂や居酒屋で一杯。池内は必ず地元のスーパーへ行くという。川本が地元の人に必ず聞くのは、戊辰戦争のときにどちらについたか、空襲にあっているかどうか、その町出身の有名人は誰か。そんな2人の流儀から見えてくる各地の町の表情はなんともユニークだ。

 既存の情報や流行に左右されることのないそうしたスタイルは、旅だけでなく、映画音楽、アウシュビッツ裁判、ヒトラー映画、永井荷風、菅江真澄、憧れの女優たち(高峰秀子、田中絹代、スーザン・ストラスバーグ、ジーン・セバーグ……)、喫茶店、レコード・ジャケット等々の話題にも貫かれていて、「すごいトシヨリ」2人ならではの闊達(かったつ)自在な語りが繰り広げられていく。

 良き相手を得て、権威や権力とは無縁で、決して偉ぶらずに飄々(ひょうひょう)と生きた池内さんの声が生き生きとよみがえってくる。 <狸>

(毎日新聞出版 1870円)

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