江戸おんな職人余録 第五弾 九州庵、おりょう 皐月の薬膳帖
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(11)きつね色になるまで
江戸の小料理屋では、揚げ物はまず出てこない。火事を恐れてのことだ。ましてや長屋の台所で揚げ物など、とてもできない。江戸で揚げ物を食べられる店といえば、屋台の天ぷら屋くらいのものだ。 長崎では…
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(10)おっ、ゴーレンかい
昨日は根付職人の治兵衛、今日は棒手振りの長吉から、同じようなことを言われてしまった。 「おりょうさん、悪いことは言わねえ。峰太だけはやめとけ。あいつはおもしろおかしいやつで、決して悪党じゃあな…
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(9)うちの近所で見かけるんだ
治兵衛はぼそぼそと小声で語った。 「あたしの長屋が深川西町の、新高橋のたもとにあるのは知ってるだろう?」 「うん、小名木川と大横川が交わってるあたりですよね。ここからはちょいと離れてる。…
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(8)あいつは食わせ者かも
ほっとした顔で箸を取った治兵衛だったが、ふと思い直した様子でおりょうを引き留めた。 「おりょうさん、ちょいと、いいかい?」 「あら、何です? 相談事ですか?」 「いや、あのな、峰太…
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(7)昼餉の膳に顔がほころぶ
〈三〉 五月の半ばを過ぎた。朝から蒸し暑い日だ。夏至を迎えてからまだ五日。梅雨が明けるには、あと半月もかかる。 あいまいな天気の下、九州庵の客入りはのんびりとしたものだ。お使いに出た峰…
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(6)俺とおりょうは一時は許婚同士
おりょうは呆れ果てた。 「峰太、あんたねえ、所帯持ちで子供が幼いってのに、独り身の頃と同じように遊び歩いてたわけ?その体たらくで、一体いつ子供の世話をしてたって?」 「手厳しいな。家にい…
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(5)嫁さんから叩き出されたんだよ
〈二〉 峰太を九州庵で雇ってもよいだろうかと、おりょうは店主のお富祢にうかがいを立てに行った。お客さんの波が落ち着いた、その日の昼下がりのことである。手土産は唐あくちまきだ。 お富祢は…
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(4)峰太とやら、なんだって江戸に
峰太は「一昨日から水しか口にしてなくて」と言った。もともと体が壮健だからか、絶食していたわりには元気そうだが、急に重たいものを食べて胃腸を驚かせるわけにはいかない。 それに、季節柄の問題もあ…
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(3)胃や腸の音を手のひらで聞く
表でぶっ倒れていた峰太を、おりょうはおなつの手を借りて店の中に引っ張り込んだ。土間に茣蓙を敷いて、その上に峰太を転がす。顔色を見るに、やはり重篤な病ではなかろう。じきに目を覚ますはずだ。 「あ…
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(2)長崎に住んでいた頃の幼馴染だよ
おりょうの故郷は長崎だ。物心ついたときには、医者たちが集い住む一軒家に暮らしていた。 父の鍋山稲風は江戸生まれの医者だった。異国渡りの医学を修めるべく、長崎に移り住んだのだ。母は長崎の娘だっ…
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(1)えっ、あんた生きとっと?
〈一〉 朝一番に店の表戸を開けて、おりょうは大声を上げてしまった。 足下に男が転がっていたのだ。あやうく踏んづけそうになった。 「ちょっと! えっ、あんた生きとっと? 行き倒れ?…
