治療しながら子育ても仕事も学校も…デザイナーの榎原理絵さん乳がんを語る
アートの力を使ってみんなが生きやすい社会に
そんな不安を抱える中、同じタイプの乳がんを経験した人から「10年生きてるよ」と伝えてもらい、それがとても励みになりました。なので、私もいつかそう伝えられる「元気なトリプルネガティブ」でいたいと思っています。自分と同じように悩む人と、経験を分かち合いたいと思うようになりました。
治療中、娘と取り組んでいたインクアートや、その後、東京芸術大学DOORプロジェクトで「ケアとアート」について学んだことが、今の活動につながっています。そのひとつが、インクアートのワークショップです。アルコールインクのにじみや混ざり合う偶然を楽しむ自由なアートです。今、年間を通して各地で開いています。ワークショップでは、立場や年齢の垣根を越えて、自然に会話が生まれる瞬間を何度も目の当たりにしてきました。
アートの力を使って、みんなが生きやすく、働きやすい社会にしたい。こうした取り組みを病院や地域だけではなく、企業にも広げていきたいと考えています。たとえば、がんを患ったとき、上司にどう伝えるか。また、病気のことを伝えられた上司はどう応じればいいのか。みんな悩んでいるのではないでしょうか?
仕事への影響が怖くて病気を伝えられない人や、良かれと思って休職を勧める上司もいるでしょう。上司や同僚のなにげない言葉で傷つく人もいるかもしれません。休みたい人もいれば、治療を受けながらでも働きたい人もいます。
まずはお互いが何を望んでいるのか話せる環境が必要だと思います。アートがそのコミュニケーションのきっかけのひとつになり、人との関わり方を見つめたり、相手をわかろうとする機会をつくれるのではないかと思っています。
「時間は無限じゃない」と、病気をして強く意識しました。誰のためにどう使うか。社会に何が残せるのかと……。少なくとも子供たちの未来には、病気を隠して働いたり、病気になった人が理不尽に傷ついたりしない社会になっていてほしいと願っています。
(聞き手=松永詠美子)
▽榎原理絵(えばら・りえ) 1979年、大阪府出身。繊維商社などを経て、2017年に「さつきデザイン事務所」を設立。21年に京都芸術大学大学院に入学するが、間もなく病気が発覚した。24年に「アトリプシー/ART+3C」を立ち上げ、病気の有無にかかわらず、アートを介した自己表現や人とのつながりを支え、ケアが社会のなかで循環するしくみづくりに取り組んでいる。
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