死んだほうがラクだと思った…芸人いのけんさん大腸がんとの闘い語る
いのけんさん(芸人/35歳)=大腸がん
「大腸がん」の手術の2年後に直腸に転移が見つかって、大腸をすべて取ってしまったのでストーマ(人工肛門)になりました。その生活には慣れてきたところですけれど、ストーマがどんなものか知らない人が多いので、仕事柄、裸になることや激しい動きを求められたときに、その都度「こういう事情でNGです」と説明するのが悩みの種。どんなふうに伝えれば面白く、かつ分かりやすく理解してもらえるかをずっと考えています。
ことのはじまりは潰瘍性大腸炎が発覚した15歳まで遡ります。当時は薬を飲んでいればまったく普通で、何の不自由もありませんでした。ただ、「リスクのある病気ではあるので念のために年1回、大腸カメラ検査をしましょう」と言われ、体調の良し悪しにかかわらず毎年検査を受けていました。下剤を飲むのが毎回キツイんですけどね。
大腸がんが見つかったのは2020年、31歳のときでした。大腸カメラ検査で「ポリープがあったので念のため検体に出します」と言われました。でもポリープはよくあることで「ああ、またか」ぐらいに思っていたのです。それが病院から「すぐに病院に来られますか?」と電話が来て、行ってみると先生が大腸カメラの写真と検体検査の結果を並べて、「悪性腫瘍が見つかりました」と言うではありませんか! 分かりやすく目の前が真っ暗になりました。
「ずっと何もなかったのに本当ですか?」という疑いの気持ちと、「死んじゃうの?」という恐怖でネガティブ一色になってしまって、そのトーンのまま妻に報告しました。すると、妻は「せっかく芸人なんだから明るく伝えようよ」と言ってくれたのです。
「これからいろんな人に報告するとき、暗く伝えたら相手も困ってしまう。相手に気を使わせないような伝え方のほうがいいよ」というアドバイスをもらって、「がんになっちゃいました、ガーン」じゃないですけど、そのくらいの明るさで事務所の方々に報告をしました。「うちの親も同じ病気になったけど元気になったよ」とか、みなさん前向きな返しをしてくれてうれしかった。妻は本当にいいこと言ってくれました(笑)。
先生から「治療は抗がん剤ではなく1回の手術で終わらせましょう」と言われて少し気が楽になりましたが、手術もやっぱり大変でした。予定は腹腔鏡でしたが、脂肪が多すぎて途中で開腹手術になったのです。
腫瘍を切除した後、一時的なストーマを作る手術で、術後10日間は想像以上にきつかった。初めの2日間は水も飲めないし、鼻にも口にもお腹にも管が入っていて生きている心地がしませんでした。痛い以上に苦しくてつらくて、人生で初めて「死んだほうがラクだ」と思いました。その気持ちを看護師さんに吐き出すと、「生きるために治療しているのになぜそんなことを言うの?」と諭されて、たしかにそうだと納得しました。
退院したのは約1カ月後です。ストーマが付いたまま1年を過ごし、21年7月にストーマを閉じる手術をしました。ようやく普通の人間に戻った気がしましたね。