十二の眼
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(101)プロンプターっていうの見せてくださいよ
そのまま社員用のエレベーターに乗り、「十三階」のボタンを押した。 庄子が山島に声をかける。 「日曜日なのに、たいへんですね」 「……4×3の配信、観ましたよ。どうすんですか、あれ…
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(100)原点回帰してみるか
後部座席に座る林檎の耳に、前方からふたりの声が聞こえた。庄子も、黙ってフリージャズを聴いていた。やがて庄子が重そうに口を開く。 「どうするよ」 「多田野の孫とは……確かに面倒ですね」 …
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(99)古い一軒家が秘密の場所に
林檎は素早く話を戻す。 「永山さん。あなたの持論は著書でも買って読みます。とにかく矢島はどこへむかったんですか?」 「まず駅で防犯カメラがない場所はどこだ? 便所だよ。たぶん矢島は女子便…
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(98)矢島が探していたのはパトロン
すると堂前は永山の家が映るスマートフォンに言う。 「帰っていい」 ──わかりました LINE電話は、なにごともなかったかのように切れた。 永山は両手を首の後ろに回し、は…
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(97)庭を掘って出てきたものによっては
「オープンにいきましょう。あなたもどうせ、この部屋のいまの様子は録画してますよね? 非公式な聞き取りになりますが、お互い後々に言った言わないがないように、こちらも録音させてもらいます。庄子さん、一之瀬…
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(96)あまりにも非日常な空間
以前に庄子から聞かされていたとおり、まるでゲートのようないくつもの扉を超えると、六本木ヒルズレジデンスの二十九階にある部屋にようやく着いた。林檎はあまりにも非日常な空間に息を呑んだが、態度に出さない…
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(95)あんたやっぱり頭いいな
「嘘じゃない」 「……じゃあ、あなたはなんの仕事をしている。どうやってこんな大金を稼ぐんですか?」 「……人材派遣」 堂前は唇を結んだ。 「わたしが必死に働いて貯めたお金です…
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(94)こんなわたしにも優しくしてくれた
彼女に芝居をしている様子は見られない。林檎は端的に、この部屋にいたと思われる男ふたりが、配信をしていた可能性があることを伝える。柏田由紀子という女性は、目を見開き驚いていた。 「え……配信? …
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(93)2階の部屋から屋上まで血痕
ふと横を見ると、庄子は黙って渡部を見ていた。その顔には、言いようのない後悔のようなものが浮かんでいるように感じた。すると庄子は目を閉じ、両手を合わせる。林檎はそれを見て、自らを恥じるように両手を合わ…
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(92)雨に濡れる地面に渡部の姿
「言ってください」 林檎は前に視線をむける。 「テレビの、画面サイズではないでしょうか?」 「画面?」 「彼が絵描きなんです。その紙を見つめているうちに、なにかぴんと来て。ネ…
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(91)歌舞伎町近くで渡部らしき男の死体
誠はゆっくりと渡部を立ち上がらせると、縁のむこうの街灯を見せた。 「……やってもいない援助交際などと書かれて、母親の元には見ず知らずの連中からたくさんメッセージが届いたそうだ。“自業自得”“そ…
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(90)あんたも自分の運を試せ
庄子は自分に呆れたような笑みを見せ、目でシャツを数える。 「ほんとうだ」 「でしょ?」 「おれ、呆けもきたのかな?」 「すこしおっちょこちょいなのは、前からです」 ふ…
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(89)まじで男の更年期かもな
「堂前さん……あんたの推察どおりだよ。犯人は複数だ」 「ええ。そうかもしれません」 堂前は答えると、部屋の隅に移りスマートフォンで電話をかけた。相手は警視庁本部の人間なのか、その上の警察…
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(88)女子高生は援交で殺されたと糾弾
男がカメラ脇から、立ち上がるのが見える。 手には養生テープらしき物を持っていた。 「──おまえのその眼は……いったいなにを見てるんだ?」 その言葉を最後に、画面はばちんと消えた…
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(87)わたしは罪を犯しました
横を見ると、庄子が両手の拳を握りしめ、唇を噛んでいた。 画面のなかの渡部が、銃とナイフを見つめ、そしてカメラに視線をむけた。 力なく、彼は口を開く。 「いまからわたしが話すこと…
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(86)薬物を摂取させ乱交パーティーへ
「……最悪です」 パソコンをこちらにむける。 SNSの書き込みの嵐が見える。 〈4×3、キター!〉 〈矢島紗矢、薬物案件! マジで!?〉 〈あんな清純そうだったのに、…
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(85)捜査員がパソコン画像を睨む
庄子が目を閉じた。撮影されたあとの渡部の安否を気にしているのだろう。林檎が言ったとおり、映像は編集後のもののようだった。画面に〈警視庁、並びに視聴者のみなさまへ ただいまからたのしい臨時ニュースをお…
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(84)暗幕の前に布を被せられた男
「なに?」 「『プロ野球速報』という、試合の結果を垂れ流すチャンネルがあったそうなんですが、それが先ほど……『4×3の部屋』というチャンネル名に変更されたみたいなんです。そして字幕で、“『名もな…
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(83)タクシーに飛び乗り麻布署へ
林檎は順平の言葉を聞き、自分の基礎──を思い出した。 決して忘れることなどない、自らの心の奥底を。 「刑事辞めたら、友梨香は怒るかね」 「怒んないでしょ。そんな奴じゃないじゃん」…
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(82)二度と被害者を出したくない
順平は、描いている手を止めた。 「いつかは終わる……ってことなんじゃないかな。コード進行が決まっていないのが、犯人に振り回されるということだとしても、そこには犯人の動機──これがミュージシャン…
