十二の眼
-

(121)勝負はもうちょいだ
堂前は苦笑いを浮かべて、歩きつづける。 三人で、十二の眼を捕まえるべく、麻布署へと戻る。 「林檎、おまえの家のリンゴ、うまかったよ。お母ちゃんに礼言っといてくれ」 「わかりました…
-

(120)あの人は誰よりも優しい
「彼に、記者の渡部を尾行させていたんです」 「ああ」 「途中で巻かれてしまった経緯の報告を受けたり……まあ、いろいろです」 堂前は、穏やかに話して、林檎に微笑む。林檎はいい機会だと…
-

(119)犯人たちに拭えない疑問
「一時間経った。一服してくるわ」 庄子はにやにやと嬉しそうに笑い、いつもの場所へと消えていく。 堂前も、どこかへ行ってしまった。また、車のなかでフリージャズでも聴きに行ったのかもしれな…
-

(118)ようやく運が警察にむいてきた
「わかりました。早急に調べさせます」 庄子が、微笑んでいた。 林檎は尋ねる。 「どうしたんですか、庄子さん」 庄子は、しずかに堂前に視線を送っていた。 「堂前さん、…
-

(117)誰かが隠蔽したかったのか
「……誰かが、なにかを隠蔽したかったのでしょう。だから事件化されなかったんです」 「……え」 「十二の眼が言うことが本当なら、坂口麻奈美さんは矢島に誘われて、いわゆるスポンサーたちに会って…
-

(116)山と田んぼしかない土地です
「パソコンのなかに、見られてはまずいものでも入っているのかな? ゆっくり、署で話してくださいね」 表に捜査員たちが到着した音が聞こえる。 男は終わりを悟ったように、目を閉じた。 …
-

(115)金庫の中に大量の薬物と器具
永井が居間から、老人を連れてやって来た。 老人は永井に腕を支えられながら、なんとか立っている。庄子がしずかに振り返り、老人を睨む。 「あんたがこの家の家主か? 名前は」 「……飯…
-

(114)じゃあ警察に連絡するか
「玄関の前に……こんなもん落ちてたんだけど」 庄子は指でつまんだ、パケ袋を老人に見せる。 老人は一瞬で、顔を歪めた。 「これ、覚醒剤だと思うのよ。おじいさん、これ、あんたの?」 …
-

(113)混じりけ無しのクリスタル
夕刻十七時──。林檎は堂前と永井と一緒に、どこかへブツを調達しに行っていた庄子と合流した。合流場所は矢島紗矢が殺害された場所と、ほど近い場所だった。雨が降るなか、庄子はあたりを見回して、ポケットに手…
-

(112)庄子って人、母さんの好みよ
「娘は、ちゃんとやってますか?たぶん元気と気合くらいしか取り柄はないですけど。あはははは!」 「お母さん。知恵も勇気もある刑事です。署としても助かってます。将来有望ですよ」 「あらー」 …
-

(111)これ以上被害者を出すわけには
堂前は庄子と林檎から離れ、永井の名を呼んだ。 永井はうなずき、ふたりで大会議室を出て行った。 林檎は強張っていた肩の力が、一気にほどけた。 「大丈夫なんですか? すごいこと考え…
-

(110)令状なんてひつようねえよ
それは堂前が渡部を「泳がせましょう」と言ったことに由来する。堂前ほどの刑事だ。4×3が渡部と接触することは、想定していたに決まっている。そこには、渡部への危険が伴うことも、承知していただろう。 …
-

(109)次に狙う標的がいるはずだ
「フルフェイスは、助かります」 メットを被ると、誠はエンジンをかける。 「警察に停められたら、どうするんだ?」 「その時は、これでどうにかします」 誠はジャケットのポケット…
-

(108)ようやくかよ 遅えよ
誠が独り言ちると、テレビ画面に目をむけながら、眉根に皺を寄せた。 「お……とうとう来たか?」 画面から機械音が聞こえ、アナウンサーが話を止めた。 画面の上に、「速報」の文字が浮…
-

(107)出来ることは誠を資金面で支えること
「大橋さんが出してくれた、『おまえのその眼は……いったいなにを見てるんだ? って、超恰好いい!』『だったら4×3は12だから、12の眼って名前にしたらいいんじゃない!?』という書き込みのアイディア。あ…
-

(106)渡部の遺体は見れましたか
大橋努は、机に並んだ三台のノートパソコンを操作していた。 六月十日、月曜日。 部屋にあるテレビからは朝の情報番組が流れていて、「十二の眼」の特集を組んでいた。埼玉県某所、山間にある一…
-

(105)矢島の遺体から薬物反応が出たと発表
「……時間がありません。おそらく彼は──短期間での決着を狙っているはずです」 庄子も、前にいる麻布署署長に進言する。その背は、まっすぐに伸びていた。 「わたくしも堂前警部補と同意見です。…
-

(104)犯罪はまだ序章に過ぎない
「二十五万円ほどだと」 「大橋努の背丈は」 「一七〇センチほどで、やせ型だそうです」 スクリーンに、働いていた当時の坂口誠、大橋努の顔写真が並べて映される。 みな凝視するな…
-

(103)4×3と思われる人物が名前を変えた
昼になり、大会議室で捜査会議がはじまる。前方の長テーブルに座る管理官、警視庁刑事部長、副本部長、事件主任官──その表情には明らかに怒りが宿っていた。いいように4×3に手玉に取られ、警察組織が世間から…
-

(102)テレビはさ、楽しいもんじゃないの
林檎は急に恥ずかしくなり、庄子の横へと戻る。庄子は山島に、「プロンプターを読むのはたいへんなのか?」「プロンプターを使わないときは、どうするのか?」「昭和のカメラの比率は、いくつか?」などいくつかの…
