十二の眼
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(5)TOBを積極的に敢行した人物
永山渉といえば、平成の中期、日本に突如現れた異物のような存在だった。バブル崩壊後の日本を嘲笑するように、「古き良きサラリーマン社会」の慣習をぶち壊していった。敵対的株式公開買い付け(TOB)を積極的…
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(4)彼女、去年スクープされたんです
午前三時前の六本木通りを歩く。首都東京の国道二四六号線は、眠ることを忘れた車たちが今日も右に左に走っている。庄子と林檎は、歩いた。 「珍しいじゃねえか、その恰好」 庄子は林檎が着ている…
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(3)十文字に裂かれた遺体に唾を呑む
「……そうか」 第一発見者である通報者には、是が非でも会いたいのが刑事の性だ。だがこのような場合、案外と通報したのちに消えてしまうケースもある。理由は簡単で、まず近くに犯人がいるのではないかと…
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(2)蒸し返すような暑さと湿気
東京のハイセレブな連中がこぞって集まる街とは思えぬ、薄暗く灰色の階段を下る。二階へ降りると麻布署に詰めている番記者たちが井戸端会議をしていた。庄子は隣の刑事に目だけをむけ、歩を緩めるように指示する。…
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(1)麻布署管内で女性が死んでいる
東京。六本木。 警視庁麻布警察署、刑事課強行犯捜査二係の刑事、庄子敬之は署内にある通称「リモコン」で、パイプ椅子に座って両足を投げ出していた。「リモコン」とは簡単にいえば通信指令室だ。麻布署…