十二の眼
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(81)事件の捜査はフリージャズとおなじ
順平ならこの質問の答えがわかるかもしれない。 林檎は筆を進める順平に、訊いてみた。 「あのね、今回のチームに、本部から来た堂前さんっていう警部補がいるの」 「うん」 「その…
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(80)順平のカレーは脳天にまで響く辛さ
林檎は交際している、真中順平の部屋にいた。 LINEで〈いまからすこし、そっち行っていい?〉と打つと、〈オーケー。了解〉と短い返事があり、林檎は順平の家に辿り着いた。実家に帰ろうかとも思った…
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(79)堂前が言った言葉を思い出す
取りあえず、干しっぱなしの洗濯物のなかから、四日分の下着や靴下を取る。 白いワイシャツも、おなじ日数分ベッドの上に投げた。 ──勝負は一週間。 そう決めていた。願をかけるよう…
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(78)犯人は必ず自分から出てくる
──林檎って、果物の林檎ってこと? ──そうらしい。 ──ちょう可愛いじゃない! いくつなの? ──二十七歳って言ってたかな。 ──そうなんだ。独身? ──そ…
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(77)堂前が美千代にむかって微笑む
堂前はBMWを飛ばし、自宅へ戻った。 車を駐車場に停めて降りると、自宅を挟んだ通りの反対側にある場所に目を移す。毎回の決め事だった。 そこには派出所があり、制服警察官が二名、勤務して…
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(76)気が利かず申し訳ない
庄子は驚き、堂前を見る。 「居場所がわからないっていうのか?」 「ええ。もし4×3がそうしたのであれば、SIMカードを抜けば居場所は掴まれないと認知しています。まあ、いまやネットの影響で…
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(75)運が良ければ生きているでしょう
堂前は照れたように、いちどだけうなずいた。 「一緒にこの事件、片づけよう」 「もちろん。そのつもりです」 庄子は安心した様子で見守っている林檎を見た。 「なんだよ」 …
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(74)どうしてもこのバッジが必要なんです
「誰にやられた」 「日本がひた隠しにする、スパイです」 「スパイ?」 「とある宗教事件にも、絡んだ」 「名前は。どんな奴だ」 堂前は庄子の横にいる、林檎にも視線を送った…
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(73)胸の奥が締めつけられる
大会議室。 特に事件の進展は見られない。 捜査員たちは散り散りに、事件の論議を交わしている。 庄子はパイプ椅子に座り、こめかみに手をやって揉んでいた。 頭が割れるよう…
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(72)警部補の奥様は躰が動きません
永井の言葉に、庄子の頬がぴくりと動いた。 「堂前警部補は、どこかをほっつき歩いているわけでも、誰かと会っているわけでもありません……警部補は、ご自宅に戻られているだけです」 庄子が眉根…
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(71)すみません、話が聞こえたもので
堂前は短く話し終えると電話を切り、戻ってくる。 「申し訳ありませんでした」 庄子が低い声で、問うた。 「……誰からだよ」 堂前は、透明な眼鏡の奥にある目で、庄子を見る。 …
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(70)犯人はひとりじゃない可能性
堂前と違い、つよい口調で訊く庄子の問いに、グエンはあきらかに動揺していた。 「男か、女か」 「男」 「年齢は」 「ほんと……遠かったから、わからない」 「背丈は。太って…
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(69)返しに来たのは同じ男か
「ほんとうに知らない人?」 「はい」 「どうやって、その人物から接触があったんですか?」 「働いているコンビニから帰るとき……店を出て、しばらくしたら声をかけられて」 「……S…
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(68)一語一句間違えずに読め
誠はパソコンを起動する。 かたかたと彼が打つキーボードの音が、しずかに部屋に響く。 「プロンプターの意味はわかるな?」 「キャスターがニュースを読み上げるとき、自分の正面の機械に…
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(67)さっき知り合ったばかりだけど
誠はよれたラグマットを、丁寧に元に戻していく。 「大手の新聞社とか……雑誌社とか、そっちの方がいいだろ」 「噂レベルの話を、どこまで信じてくれるかなと思ってね。それに冗談じゃなく本気で、…
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(66)薬物の過剰摂取で死んだんだぜ?
「いや……そんなことない。驚いて、なにも言えなかっただけだ」 「そうか。まあ、いい」 すると青年はまた立ち上がり、バッグのなかを漁り始めた。 黒いおおきな布を取り出し、養生テープ…
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(65)おれのほんとうの名前は
鼻からはまるで滝のように、血が流れ落ちた。 「すこしは真っ直ぐになりましたよ。あなたの心も、これくらい真っ直ぐになったらいいのにね」 青年は笑みをたたえながら、渡部を見つめた。 …
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(64)叫んだりしたら酷い目にあうよ
「……ちょっと」 その瞬間だった。 青年は思い切り頭を振りかぶり、渡部の鼻に頭突きを入れた。 「うが!」 渡部は床に倒れ、もんどり打つ。真っ赤な鮮血が床に流れた。 …
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(63)乾いた音と左手の冷たい感触
……最初に、右ストレートをぶち込んどくか。 渡部はこの緊迫感のなかで妙な高揚感さえ覚えてきた。よく見れば、やはりただの美しい青年だ。見ようによっては、どこにでもいるヤサ男にさえ見えてくる。よ…
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(62)今日は訊けるだけ訊いてやる
「ああ……渡部さんもいよいよ本腰を入れて記事にされると思って、すべてを話しておいたほうがいいかな、って」 「助かります」 渡部は記者の顔つきになる。 「あ、その前に、いつものいいで…
