(59)まるで野良猫じゃないか
〈出立の支度〉
夕刻に配られた粥を掻きこんでいた佐助は、空になった椀を恨めしく見つめる。
城郭の中、日がな一日何をしているわけでもないのに腹が空く。城郭の片隅で植えていた芋は、未だ食べられるわけでもないし、鳥を射落とした野武士が、焚火で焼いているのを見たが、分けてもらえなかった。
「……腹が減った」
ここ数日は、食べ物のことしか頭にない。その時、侍大将の弥太郎が姿を見せた。
「佐助、来い」
何か、役目でも与えられるのかと、不安に思いながら立ち上がり、ふらふらとついて行く。
ここ数日で、げっそり痩せているのに、何だか背が伸びたような気がする。膝やら肘やらあちこち痛んでいた。
弥太郎に導かれるまま、本丸へ入ると、廊下を進み、辿り着いたのは台所であった。
「おお、来た来た」
声がする方を見ると、胡坐をかいて粥を啜っている老僧、宗長がいた。そして己の椀をずいと佐助に寄越す。
「要るか」
佐助は返事をするより先に、滑り込むように宗長の傍らに寄り、椀の中の粥を啜った。
「まるで野良猫じゃないか」
そう言ったのは、桂包をして腕組みをした女だ。雑兵たちが、「猿楽一座の茜太夫」と呼んでいた。華やかできれいだが、いつぞや列に並ばない者を容赦なく叱る姿が、「死んだ母さんみたいだ」と思った。
「まあまあ、育ち盛りの小僧だからな。仕方ないさ」
宗長は笑っていた。
少し腹が落ち着いて来た佐助は、そこではたと我に返る。
「あの、俺はどうしてここに呼ばれたんでしょう」
「今頃かい」
茜に揶揄われて、佐助は頭を掻いた。宗長は佐助に改めて向き直る。
「佐助、一緒に、椿城まで和議の交渉に行ってくれないか」
「椿城……って、何処ですか」
「この城を出て、一刻……二刻はかかるまい。朝にここを出たら、昼には着く」
「城を出るって……出たら射られて死にますよ」
先日、宗長の口車に乗せられて打って出た男たちが死んだばかりだ。この男の話を信じていいのか疑わしい。
「あちらから文が来ているから大丈夫だ。一人くらいは伴を連れてもいいらしい」
宗長は懐から折りたたまれた文を取り出した。矢文で届いたそれを広げて見せられたが、佐助は文字を読めないので、墨で幾つもの線が並んでいるだけにしか見えない。
「どうしてこの子を連れて行くのさ。僧は男色も多いって言うけど、お稚児さんかい」
「いやいや、そうではないぞ、茜太夫。そうさな……お前がこの城の中でもまだ、人の死を泣けるからかな」
佐助は首を傾げる。
「人が死んだら悲しかろう。そんなのみな同じだ」
佐助は同意を求めるように問いかける。
(つづく)


















