修羅にうたう
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(75)どうか、御覚悟を決めていただきたい
「いえ、むしろそのお望みのままに致しましょう」 宗長は思いがけないことを言い、美祢は目を瞬く。宗長はにっこりと微笑んだ。 「姫様は、雅なお歌を詠まれる御方。今川の桂様は、同じお歌でもむし…
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(74)輿入れするしか、術はないのか
「私と同じ年ごろの娘たちも死んでいると……佐助も言っていた」 宗長は、ううむ、と唸る。 「戦場となった村などでは、分捕りがあります。武士たちはそこに若い娘がいれば攫い、犯し……」 …
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(73)姫様がご了承いただけるのなら
〈美祢姫の決意〉 「桂姫様は、今や押しも押されもせぬ今川の御方様でございますよ」 宗長の言葉に、大井の姫、美祢は、ほうっと嘆息する。 「噂には聞き及んでおりましたが、御立派な御方様…
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(72)私ではいけませんか
桂の暴露に、父、宣胤は取り繕うように慌てるが、当の楓は袖で顔を覆いつつ、目を伏せる。 「市で無頼者に絡まれているところを助けていただいたのです」 楓の言葉に、桂はやれやれ、と肩を竦める…
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(71)氏親に似合うのは一の姫か、二の姫か
〈中御門家の姫君〉 宗長が桂姫に会ったのは、今を遡ること十二年前。永正二年の夏のことであった。 駿河の主である、今川氏親はここ数年、戦に次ぐ戦の日々を送っていた。宗長の知る幼い日の龍王…
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(69)戦とは「見てはならぬもの」
〈美祢姫の迷い〉 宵闇の帳が空を覆い始めるのを、美祢はまんじりともせず、縁から眺めていた。 「姫様、冷えて参ります」 白髪の侍女、梅が言う。梅は、美祢の乳母であり、幼い頃から傍ら…
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(68)腹いせに斬られてもおかしくはない
「このまま放って置いて、うっかり勝山城が全滅したとしても、国人の暴挙という体を取れるから、今川には何とか言い訳がつく。つまり、勝山城が死に絶えるまで待ってから和議をするというのも、一つの手ではある。そ…
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(67)戦が終わらねば骸だらけに
宗長がいなそうとするのを、佐助は身を乗り出して遮る。 「戦を終わらせるために、姫が武田に輿入れするという話です」 「黙れ、小僧。美祢は下がれ」 厳しい口調で命じられた美祢は戸惑い…
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(66)望むところでございます
「短慮でございましたな。今川の助力を頼むのなら、よく協議なさるべきであった。それなのに、引き入れるだけ引き入れて、好き放題させていた故……勝山城からここに来るまでの道中、田畑は荒れ、ごろごろと骸が転が…
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(65)扇の緑の松がちらちら見え隠れ
城の中は、戦の最中ということもあり、甲冑を纏った武士たちが大勢いた。しかし、勝山城とはまるで様子が違う。 勝山城は、無気力な様子の雑兵たちが城郭の中で体を横たえており、そこかしこで用を足すこ…
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(64)視線の鋭さに身を竦ませる
このままでは戦線を保つことが出来ない故に、できれば武田と和議を結びたい。しかし、助力した今川を斬り捨てられない。 その優柔不断の間に、今川が武田と和議を結んでしまうと、大井は取り残されること…
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(63)老僧は十六の佐助より健脚
〈椿城〉 山から下りて来る風は冷たさを増している。佐助は寒さに首を竦めつつ、前を行く宗長に小走りでついていく。老僧は七十になるというのに、十六の佐助よりも健脚なほどである。 道中、そこ…
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(62)これなら立派なお小姓さんだよ
茜は、すっと自らの髪を結っていた紐を解くと、それをずいと佐助の目の前に突き出した。 「これ、いいだろう」 それは、藍と赤が組み合わさった鮮やかな色の組紐だ。 「きれいだね」 …
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(61)あんたは、ここにいちゃいけない
「流石は侍大将。こんな所でもちゃんとした衣を持っている」 揶揄うように言い、茜は佐助を手招いた。佐助が渋々と茜について台所の裏手にある小間に行くと、裏にある井戸端を示された。 「汚れを落…
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(60)これを佐助に着せてやってくれ
弥太郎は目を伏せて黙り、茜は佐助の肩を優しく抱いた。宗長は、ふむ、と頷いた。 「この修羅の場で、人の心を持ち続けるのは難しい。されどその人の心があるお前にこそ、ついて来て欲しいと思うのだ……一…
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(59)まるで野良猫じゃないか
〈出立の支度〉 夕刻に配られた粥を掻きこんでいた佐助は、空になった椀を恨めしく見つめる。 城郭の中、日がな一日何をしているわけでもないのに腹が空く。城郭の片隅で植えていた芋は、未だ食べ…
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(58)御館様も…ですか
「よい歌であろう。琵琶湖に限らずいずれの旅路も、急ぐ時ほど回り道が早いことがあると、師匠の宗祇様もおっしゃった。助かろうと思えばこそ、逸る心はよう分かる。されど、迂遠に見えてもより確かな道を選んだ方が…
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(57)要るのは長い長い物語
確かに、起こらなかった戦もあるのだろう。 此度の戦とて、何故、ここまで深入りする前に止めることが出来なかったのかと思わぬではない。事前の策も、謀もなく、闇雲に突っ込んだ挙句、国人の恨みを買う…
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(56)旅をしたことはあるかな
〈戦ぎらい〉 「いずれも四十年前……そなたなんぞ生まれてもおるまい」 宗長は自嘲するように笑った。 「しかし、一休宗純という人は、余りにも型破りな……」 弥太郎はやや呆れつ…
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(55)そなたはそなたの灯に従え
すると一休は、ゆっくりと首を横に振る。 「渦に巻き込まれぬ術は、ただ抗うことではない」 「ではどうするというのです」 破戒僧の禅問答に答えが見つからず、宗長は苛立った。すると一休…
