本の森
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「する」でも「される」でもない中動態
表題にある「中動態」とは、かつてのインド=ヨーロッパ語族に存在していた「態」で、能動態と共に動詞体系を形成していたが、ある時期以降受動態に取って代わられ、現在は使用されていない――と書いても何のこと…
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あえて事件の「真ん中」から語る異色作
ミステリーのジャンルのひとつに倒叙ミステリーがある。最初に犯人が明かされ、そこから遡って犯行に至る過程、犯行の動機などが徐々に明かされていく手法で、「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」などでお馴染みだろ…
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解説も楽しい50年ぶりの新訳
「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人か言い当てて見せよう」「新しい料理の発見は人類の幸福にとって天体の発見以上のものである」「チーズのないデザートは片目の美女である」――これらのアフ…
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「感性」の変容でたどる戦後昭和史
「ここは広場ではありません、通路です。立ち止まらないでください――」久しぶりにこんなフレーズが蘇ってきた。そう、新宿西口地下広場でギター片手にフォークソングを歌って反戦を訴えていた「フォークゲリラ」を…
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傷を負った人の声を拾ったオーラルヒストリー
ひとから話を聞き出すというのは、なかなかに難しい。ことに現代のように、SNSなどによる発信優先社会では、ひとの話に耳を傾けることはおろそかにされがちだ。また、世に出ている聞き書きやインタビューの本も…
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ルターの「提題」以後を簡潔に説明
今から500年前の1517年10月31日、神聖ローマ帝国の修道士マルティン・ルターは、ローマ教会が発行する贖宥状(しょくゆうじょう=日本では免罪符として知られるが、正しくは、罪を免れるのではなく、科…
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故郷を追われた中東の秘教の今
先日、IS(イスラム国)の最大拠点のモスルが陥落したと報じられた。モスル周辺はヤズィード教というゾロアスター教以前のイラン系多神教の末裔である宗教を信仰している人々の居住地域であった。 ヤズ…
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吉田松陰も読んだ江戸時代の禁書
聖徳太子の存在に疑義が呈されたり、鎌倉幕府の成立は1192年ではなく、頼朝が諸国に守護・地頭を置く権利を得た1185年説が有力となったり、近年、日本史の教科書の記述が変化している。 江戸時代…
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ニュー・ジャーナリズムの巨匠の戸惑い
ゲイ・タリーズといえば、ニュー・ジャーナリズムの旗手として有名だが、中でもアメリカのセックス革命を赤裸々に描いた「汝の隣人の妻」は大きな評判を呼んだ。 その「汝の隣人の妻」刊行前の1980年…
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眼の確かさに思わず笑み
埴谷雄高から、「天衣無縫の文章家」と称えられた武田百合子が亡くなったのは1993年5月27日。もう四半世紀近く経つ。それでも「富士日記」をはじめとするその著作はいまだに読み継がれている。とはいえ、本…
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「味覚の窓」が開いているうちに食べさせよ!
日本の子どもの嫌いな食べ物といえば、ピーマン、セロリ、トマト、ニンジンといった野菜が昔も今も上位を占めている。こうした傾向は日本ばかりでなく、欧米でも子どもの野菜嫌い(芽キャベツ、ビーツ)、ジャンク…
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江戸時代には「母乳」という言葉はなかった
母乳ミルク論争というのをご存じだろうか。ネットを中心に、自分の産んだ子を母乳で育てるのがよいか、それともミルク(人工乳)のほうがよいかをめぐって、さまざまな論議が交わされている。 もっともこ…
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小沢さん、長生きしてくださいね
このところ松坂屋の跡地にGINZA SIXができたり、長年親しまれたソニービルが閉館となるなど、銀座が様変わりしている。そのソニービルが面する外堀通りを新橋方向に行くと、土橋交差点の手前にリクルート…
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詐欺師の父に翻弄され続けたル・カレ
いささか旧聞に属すが、「ツバメ号とアマゾン号」シリーズでおなじみの英国の児童文学作家アーサー・ランサムが、英国秘密情報部MI6に属してスパイ活動をしていたことが暴露された。MI6といえば、007シリ…