本の森
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「図書館巡礼」スチュアート・ケルズ著、小松佳代子訳
アレクサンドリア図書館といえば古代最大の知の殿堂といったイメージだが、本書には同館の本の収集方法が明かされている。アレクサンドリアの港に本を積んだ船が入港すると、その本は図書館に押収され、筆写し終え…
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「胎児のはなし」最相葉月、増﨑英明著
夢野久作の「ドグラ・マグラ」といえば、日本のミステリー史上、いや、近代文学史上において、類を見ない奇書として孤高の光を放っている。その中に「胎児の夢」という言葉が出てくる。胎児は母の胎内で生物の進化…
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「その部屋のなかで最も賢い人」トーマス・ギロビッチ、リー・ロス著小野木明恵訳
「自分よりゆっくり車を走らせているやつはバカで、自分より速いやつはイカレてると思ったことはないか?」 こう聞かれて、多くの人はうなずくに違いない。つまり、一口に「客観性」とはいっても、そこには…
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「ナチスから図書館を守った人たち」デイヴィッド・E・フィッシュマン著羽田 詩津子訳
1941年6月、バルト3国のひとつリトアニアへドイツ軍が侵攻する。リトアニアの首都ヴィルナ(ビリニュス)は「リトアニアのエルサレム」と呼ばれ、多くのユダヤ人が住んでいた。ドイツ軍の支配下に入ったヴィ…
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「犬であるとはどういうことか」アレクサンドラ・ホロウィッツ著 竹内和世訳
生物学の名著のひとつにユクスキュルの「生物から見た世界」がある。人間の目からではなく個々の生物それぞれが知覚する環境世界から生物を見ることを提唱した先駆的作品だ。犬や猫を飼っているとついつい人間にな…
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「鶴見俊輔伝」黒川創著
戦後日本を代表する思想家といえば、吉本隆明と鶴見俊輔の名前を外すことはできないだろう。この2人の対談に「思想の流儀と原則」がある。「流儀」を重んじる鶴見と「原則」にこだわる吉本の違いが鮮やかに表れて…
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「9つの脳の不思議な物語」ヘレン・トムスン著、仁木めぐみ訳
帽子と妻の顔との区別が付かず、妻の頭をつかまえて持ち上げてかぶろうとする――人間の脳が引き起こす不思議な現象を数多く紹介して、常識に揺さぶりをかけたのは「妻を帽子とまちがえた男」「火星の人類学者」な…
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「いま、〈平和〉を本気で語るには 命・自由・歴史」ノーマ・フィールド著
先頃亡くなったドナルド・キーンは、第2次世界大戦以後、世界中のあちこちで多くの人が戦争で死んだが、日本人は1人も戦死していない、このことを日本人は忘れてはならないと言っていた。そこに日本国憲法第9条…
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「加藤周一はいかにして『加藤周一』となったか」鷲巣力著
岩波書店創業100周年のアンケート「読者が選ぶこの1冊」の新書部門で、斎藤茂吉「万葉秀歌」、丸山眞男「日本の思想」に次いで第3位に選ばれたのが加藤周一の「羊の歌」だ。加藤周一が生まれたのは100年前…
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「信仰と医学」帚木蓬生著
ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の〈大審問官〉の章に16世紀のスペインのセビリアにキリスト(らしき人)が現れるという挿話が出てくる。この小説が書かれたのは1879~80年。イエスならぬ聖母マ…
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「THE LAST GIRL」ナディア・ムラド、ジェナ・クラジェスキ著、吉井智津訳
イラク北部からトルコ東南部にかけて住むクルド人に一定の信者を持つヤズィディ教は、キリスト教やイスラム教と同じ一神教だが、輪廻転生を信じたり、異端とされるクジャク天使を信仰することから、周囲のイスラム…
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「探偵小説の黄金時代」マーティン・エドワーズ著 森英俊、白須清美訳
ジュリアン・シモンズの「ブラッディ・マーダー」は、ミステリーという文芸ジャンルをE・A・ポー以前の推理小説から説き起こし、続く探偵小説から犯罪小説の流れとして捉え、それに関わる作家と作品を詳細に考察…
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「記憶術全史」桑木野幸司著
F・トリュフォーの映画「華氏451」は本の所持を禁止された世界を描いたものだが、その中に、本をまるごと暗記している「本の人々」が登場する。プラトンの「国家」やオースティンの「高慢と偏見」などを一言一…
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「ジェット・セックス」ヴィクトリア・ヴァントック著 浜本隆三、藤原崇訳
若く美しく、未婚で、身なりがきれい、細身で魅力的、知性的で高学歴、白人で異性愛者、そして愛情深い――かつてのアメリカのスチュワーデスには模範となる完璧な女性像が投影されていた。白人という項目を除けば…
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「なぜ私は一続きの私であるのか ベルクソン・ドゥルーズ・精神病理」兼本浩祐著
アイデンティティー――私が私であるという、一見自明のようなことだが、よく考えてみるとそう簡単ではないことに気づく。例えば、私の体はどこまで私の体なのか。爪や垢、髪の毛は私の体の一部なのか。あるいは口…
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「封印された殉教」(上・下)佐々木宏人著
昨年、長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産が世界文化遺産に登録され、江戸時代のキリシタン弾圧に関心が寄せられるようになったが、忘れてならないのは、先のアジア・太平洋戦争下においてもキリスト教への弾…
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「土・牛・微生物」デイビッド・モントゴメリー著 片岡夏実訳
牛などの反すう動物のげっぷにはメタンガスが多く含まれ、それが地球温暖化を進めていると、あたかも温暖化の元凶のようにいわれている牛だが、本書では逆に、温暖化を防止する救世主として登場する。土・牛・微生…
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「静寂と沈黙の歴史」アラン・コルバン著、小倉孝誠、中川真知子訳
におい、音、快楽、知識欲といった、およそこれまで歴史学の対象とは考えられていなかった、痕跡が残されていない不定形なものの歴史を描いてきたアラン・コルバンが今回テーマにしたのは「静寂と沈黙」。音も言葉…
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「嗅覚はどう進化してきたか」新村芳人著
映画にもなったジュースキントの「香水――ある人殺しの物語」は、超人的な嗅覚を持つ男の悲喜劇を描いたものだが、においと香りの奥深さを堪能させてもくれる快作だ。だが、改めて「においとは何か?」と問われる…
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「看取りの人生」内山章子著
集合写真のキャプションで「1人おいて誰々」というのがある。名のある人たちが多く写っていれば、必然的に「おかれて」しまう人も出てくる。著者の祖父は台湾総督府民政長官、外務大臣、東京市長などを歴任した後…
