「味覚の窓」が開いているうちに食べさせよ!

公開日: 更新日:

「人はこうして『食べる』を学ぶ」ビー・ウィルソン著、堤理華訳 原書房 2800円+税

 日本の子どもの嫌いな食べ物といえば、ピーマン、セロリ、トマト、ニンジンといった野菜が昔も今も上位を占めている。こうした傾向は日本ばかりでなく、欧米でも子どもの野菜嫌い(芽キャベツ、ビーツ)、ジャンクフード好きが問題となっているようだ。

 そこで疑問が浮かぶ。食べ物の好き嫌いは、先天的なものなのか、あるいは環境によるものなのか、と。この問題に関して、フードジャーナリストのビー・ウィルソンが書いた「人はこうして『食べる』を学ぶ」に、ユニークな実験が紹介されている。

 1926年のアメリカで、固形物を食べた経験のない生後6~11カ月の乳幼児に、水、ミルク、トマト、ニンジン、骨髄、チキンなど34種類の食品を強制なしに好きなものだけを毎日与え続けた。その結果、好みの偏りはあったが、どの乳児も実験前よりも体調が良好となった。以後、好き嫌いは生まれつきで、何を食べるかは子どもの自主性に任せるべきだという考えが主流となった。

 しかしビーは、この実験に使用された34品目はいずれも加工されていない自然食品だから何を食べても必然的に栄養を摂取できたはずで、この実験をもって子どもの自由裁量を良しとすることに異を唱えている。人間には生後4~7カ月にかけて、いろいろな味覚を積極的に受け入れられる「味覚の窓」という時期があり、この月齢の乳児に野菜を与えると嫌がらない。逆にいえば、この時期に多様な味に馴染ませれば好き嫌いの芽を摘むことができる。つまり「食べる」という一見本能的な行為は、極めて文化的な行為であり、正しい食行動を学ぶことで好き嫌いを克服できることを教えてくれる。

 ダイエットや摂食障害についても、食行動という本質的な観点からその実態に迫っているこの本は、そうした悩みを抱えている人たちに新たな希望を与えてくれるだろう。〈狸〉

【連載】本の森

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    N党・立花孝志氏に迫る「自己破産」…元兵庫県議への名誉毀損容疑で逮捕送検、巨額の借金で深刻金欠

  2. 2

    高市内閣は早期解散を封印? 高支持率でも“自民離れ”が止まらない!葛飾区議選で7人落選の大打撃

  3. 3

    箱根駅伝は「勝者のノウハウ」のある我々が勝つ!出雲の7位から良い流れが作れています

  4. 4

    女子プロレス転向フワちゃんいきなり正念場か…関係者が懸念するタレント時代からの“負の行状”

  5. 5

    高市首相「午前3時出勤」は日米“大はしゃぎ”会談の自業自得…維新吉村代表「野党の質問通告遅い」はフェイク

  1. 6

    歪んだ「NHK愛」を育んだ生い立ち…天下のNHKに就職→自慢のキャリア強制終了で逆恨み

  2. 7

    我が専大松戸は来春センバツへ…「入念な準備」が結果的に“横浜撃破”に繋がった

  3. 8

    学歴詐称問題の伊東市長より“東洋大生らしい”フワちゃんの意外な一面…ちゃんと卒業、3カ国語ペラペラ

  4. 9

    村上宗隆、岡本和真、今井達也のお値段は?米スカウト&専門家が下すガチ評価

  5. 10

    自死した元兵庫県議の妻がN党・立花孝志党首を「名誉毀損」の疑いで刑事告訴…今後予想される厳しい捜査の行方