ニュー・ジャーナリズムの巨匠の戸惑い

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「覗くモーテル 観察日誌」ゲイ・タリーズ著、白石朗訳 文藝春秋 1770円+税

 ゲイ・タリーズといえば、ニュー・ジャーナリズムの旗手として有名だが、中でもアメリカのセックス革命を赤裸々に描いた「汝の隣人の妻」は大きな評判を呼んだ。

 その「汝の隣人の妻」刊行前の1980年1月、タリーズの元に1通の手紙が届く。手紙の主はモーテルの経営者で、15年にわたってモーテルにやって来る人々の性行動を秘密裏に観察し、その詳細な日記を残しているので、きっとあなたの役に立つだろう、と。

 男はジェラルド・フースといい、部屋の天井に通風孔に見せかけた覗(のぞ)き穴を開け、そこから夜な夜な客たちの狂態を観察していた。タリーズも彼の案内で自ら覗きを体験する。以降、フースは日記を送りつけて自分の日記を公表するよう頼むが、実名を出せない限り本にする気はないとタリーズは拒否。そして2013年、ようやくフースは実名を公表することに同意し、刊行されたのが「覗くモーテル 観察日誌」だ。

 ところが刊行直前に「ワシントン・ポスト」が、フースがモーテルを手放していた時期にも日記がつけられていたことを指摘し、その信用性に疑義を呈した。フースはいわゆる「信頼できない語り手」であることが暴露されたのだ。

 登場人物の内面に踏み込んで真実と虚のはざまに迫るというのがニュー・ジャーナリズムの真骨頂。であれば、こうした語り手を相手にタリーズがいかに対峙していくのかがこの本の読みどころとなる。タリーズは事実と確定できる日記を引用しつつ、幼い頃に叔母の裸を見て以来のフースの覗き見人生をたどっていく。

 とはいえ、タリーズ自身、この語り手を信頼し切れていないことが文章の端々にうかがわれる。不倫、同性愛、グループセックスといった生々しい記録と、85歳になるニュー・ジャーナリズムの巨匠のどこか自信なさげな戸惑いの対照の妙が思わぬ面白さを生んでいる。   <狸>

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