本の森
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「パンと野いちご」山崎佳代子著
「7つの隣国、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、そして1つの国家」と形容されたバルカン半島の多民族国家・旧ユーゴスラビアは、1991年に始まる内戦によって崩壊した。 …
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「憎しみに抗って」カロリン・エムケ著 浅井晶子訳
「出てけ、出てけ」と怒号が飛び交う中、顔を歪ませた少年がバスを降り、最前列の2人の女性は恐怖におびえながら肩を寄せ合う――。ドイツ東部ザクセン州のクラウスニッツにバスで到着した難民たちを住民100人余…
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「初代『君が代』」小田豊二著
このところ、映画「君の名は。」の主題歌「前前前世」が大ヒットした人気ロックバンドRADWIMPSの新曲「HINOMARU」が物議を醸している。「気高きこの御国の御霊 さぁいざゆかん 日出づる国の御名…
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行政府より立法府を優位に位置づけた私擬憲法
今年は明治維新から150年ということで、政府は関連施策を推進・計画しているが、盛り上がりはいまひとつ。50年前も明治百年記念式典が行われたが、そうした政府のお手盛り行事に対して、侵略戦争も含めて明治…
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赤い鳥とオフコースが新宿厚生年金会館で優勝争い
1971年7月28日、日比谷野外音楽堂は異様な空気に包まれていた。 “フォークの神様”こと岡林信康が「自作自演コンサート 狂い咲き」と称し、デビュー以来4年間に作った全32曲を歌うという特異な…
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女性たちが闘いとってきた「自身の存在価値」
福田前財務事務次官のセクハラ事件に対して多くの女性たちが抗議の声を上げたが、上野千鶴子は、その抗議の中に「家父長制と闘う」「ジェンダーの再生産」「自分を定義する」といった女性学・ジェンダー研究の学術…
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神父と隠れキリシタンの再会は粉飾か
一昨年マーティン・スコセッシ監督の映画「沈黙―サイレンス―」(原作・遠藤周作)が公開され、今年には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がユネスコの世界遺産に登録される可能性が高いなど、ここにき…
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一足とびに大人になった手塚治虫らのこども時代
日本のメーキャップアーティストの草分けであり、83歳のいまも現役の美容研究家として活躍している小林照子さんが、その昔、「どんなに怖そうな男の人でも、その人の赤ちゃんやこどもだった頃を思い浮かべると可…
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東アジア版移動文学論が切り開く可能性
「外地」とは、一般には日本がかつて領有していた朝鮮・台湾・樺太(サハリン)・南洋群島などを指す言葉で、対義語は「内地」だ。ただし、北海道や沖縄では本州を「内地」と呼ぶこともあり、単に植民地と本国とを区…
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ホモ・サピエンスだけが生き残った謎に迫る
700万年前にチンパンジーと枝分かれした「人類」は現存のホモ・サピエンスに至るまでおよそ20種類ほどの種が存在していたという。本書が問うのは、なぜ他の種は消滅して我々(ホモ・サピエンス)しか存在して…
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エピソード記憶を失った男の物語
したたかに酔っぱらい、前後不覚に陥ったにもかかわらず、気づいたらベッドで寝ていた――酒飲みなら、一度はそんな経験があるはず。この帰巣本能ともいうべき体が覚えている記憶のことを「手続き記憶」という。 …
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世界的発見のきっかけは「気晴らし」から
民俗学者の柳田国男は、「木綿以前の事」の中で、木綿が日本人の生活にもたらした大きな変化を論じたが、木綿の普及は、日本に限らず世界史的な出来事であったことが本書によって知ることができる。 17…
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がれきの街から掘り出した本で図書館を開設
シリアにおける民主化運動、「アラブの春」は2011年3月に始まるが、首都ダマスカス郊外の町ダラヤはアサド政権に抗議する反体制運動の拠点であった。それだけに政府側の攻撃も激しく、うち続く爆撃などによっ…
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人と人をつなぐことこそ出版の醍醐味
1922年、スイスの精神科医・心理学者のC・G・ユングは、チューリヒ湖畔のボーリンゲンに土地を買い、翌年、塔のような円形家屋を建てた。有名な「ボーリンゲンの塔」である。この塔は、ユングの「個性化の過…
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精神より“下等”な肉体から統合失調症を考察
ドキッとするタイトルである。解剖学者の三木成夫の本に「内臓とこころ」という本がある。これは排尿のときの膀胱の感覚、お腹のすいたときの胃袋の感覚など、内臓の感覚を述べたもの。対して本書のタイトルは、「…
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メキシコに語学留学した翻訳家の格闘記
「六十の手習い」とは晩学のたとえだが、学問や稽古事を晩年に始めても遅すぎることはないという意味で使われることも多い。だが、こと外国語学習に関しては臨界期(その時期を過ぎると学習が不可能になる期間)があ…
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俗語を巧みに活用した名訳
昨年9月に刊行が始まった「水滸伝」の完訳が完結した。400字詰めで7300枚に及ぶこの大長編を月1巻のペースで出していくには、訳者、編集者、校正者その他の並々ならぬ労苦が想像される。 「あとが…
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詩で食っているただ一人の詩人
現代日本に自称・他称「詩人」と呼ばれる人は数あれど、「詩を書いて食っている詩人」といえば、谷川俊太郎ただ一人。24歳の谷川は「1956年の日本で、詩を書いて食っている詩人はいない。しかし、だからとい…
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世界一センセーショナルな作家の“処女小説”
ウエルベックといえば、フランスにイスラム政権ができるという近未来小説「服従」の刊行当日に、イスラム教過激派を風刺した週刊紙「シャルリー・エブド」の襲撃事件が起こるなど、〈世界一センセーショナルな作家…
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現代にもつながる縄文ネットワークの広がりを検証
いち早く縄文文化の特異性を指摘したのは岡本太郎だったが、以来、何度かの“縄文ブーム”といわれる縄文文化への関心が高まった時期があり、近年ふたたびその兆しがあるという。とはいえ、ひと口に縄文といっても…
