本の森
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俗語を巧みに活用した名訳
昨年9月に刊行が始まった「水滸伝」の完訳が完結した。400字詰めで7300枚に及ぶこの大長編を月1巻のペースで出していくには、訳者、編集者、校正者その他の並々ならぬ労苦が想像される。 「あとが…
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詩で食っているただ一人の詩人
現代日本に自称・他称「詩人」と呼ばれる人は数あれど、「詩を書いて食っている詩人」といえば、谷川俊太郎ただ一人。24歳の谷川は「1956年の日本で、詩を書いて食っている詩人はいない。しかし、だからとい…
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世界一センセーショナルな作家の“処女小説”
ウエルベックといえば、フランスにイスラム政権ができるという近未来小説「服従」の刊行当日に、イスラム教過激派を風刺した週刊紙「シャルリー・エブド」の襲撃事件が起こるなど、〈世界一センセーショナルな作家…
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現代にもつながる縄文ネットワークの広がりを検証
いち早く縄文文化の特異性を指摘したのは岡本太郎だったが、以来、何度かの“縄文ブーム”といわれる縄文文化への関心が高まった時期があり、近年ふたたびその兆しがあるという。とはいえ、ひと口に縄文といっても…
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エーコの自作品解説も兼ねる講義録
本書は、一昨年84歳で亡くなったイタリアの中世美学・記号論・哲学と幅広い分野で活躍した世界的知識人にして小説家でもあるウンベルト・エーコが2008年10月5日から3日間にわたって米国エモリー大学にお…
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ユダヤ人迫害をいち早く察知した“ピッピ”の生みの親
赤毛のツインテールで、顔はそばかすだらけ、そして長いくつ下をはいている世界一つよい女の子“ピッピ”。ご存じ、スウェーデンの児童文学作家、アストリッド・リンドグレーンの「長くつ下のピッピ」である。この…
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「世界の良心」チョムスキーの現代アメリカへの批判
ノーム・チョムスキーといえば、変形生成文法理論を提唱した言語学者であり、反戦運動や市民運動に積極的にかかわる先鋭的な思想家としても知られている。 また第2次安倍内閣発足後半年の時点で、安倍晋…
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“未来の計画”を立て早起きするチンパンジー
古来、人間とは何かという定義が種々なされてきた。いわく、ホモ・サピエンス(知恵ある人)、ホモ・ファーベル(工作する人)、ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)、ホモ・シンボリクス(象徴を使う人)、ホモ・パティエ…
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レニングラード包囲の872日間を描く日記文学
今年はロシア革命から100年。その革命後約四半世紀たった1941年6月22日、ナチス・ドイツはソ連に侵攻した。9月8日には、レニングラード(現サンクトペテルブルク)を封鎖・包囲し、以後44年1月27…
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「徘徊自動症」と名づけた途端、症例報告が増加
アーシュラ・K・ル=グウィンの「ゲド戦記」には、真(まこと)の名というのが出てくる。この真の名はみだりに知られてはならない重要なもので、物語の重要なキーとなっている。このように名前、名づけは極めて重…
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ローマ教会が思想統制で禁書目録を作成
今年は宗教改革の開幕を告げるルターの「95カ条の提題」が公開されてからちょうど500年。その「提題」はわずか14日ほどでドイツ全土に行き渡り、その1517年から1530年の間に、「提題」を含むルター…
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アフリカのある国で新しい地図を頼んだら…
もう40年ほど前だろうか。こんな話が伝わってきた。西江雅之という人は、英語の本をドイツ語に訳しながらフランス語で会話ができるんだ、と。当時既に気鋭の文化人類学者であり、数十の言語に通暁している言語学…
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平安時代の宮廷医が朝廷に献上した医学全書
シャンポリオンのロゼッタ・ストーンの解読に至る物語は、ミステリーの謎解きのような知的興奮に満ちているが、我が国最古の医学全書である「医心方」の解読もまた困難を極め、著者が40年の歳月を費やし、201…
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思想家・藤田省三の批判精神の楽屋裏
1960年代末~70年代初頭の大学闘争のときに、大学当局の対処の仕方に抗議して、自ら大学を去った、あるいは大学から追われた学者たちがいた。 たとえば、同志社大学の哲学者・鶴見俊輔、国際基督教…
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後世の加筆分を徹底検証した大著
新約聖書の「ヨハネの黙示録」はデューラーをはじめとする多くの画家たちが画題として取り上げ、中に登場する「蒼ざめた馬」をタイトルにしたアガサ・クリスティとロープシンの小説も有名。 それらにイメ…
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日本語のオノマトペ数は2000語以上!
本書はこんなフレーズから始まる。「イギリス人は動詞で泣く、日本人は副詞で泣く」。はて、どういうことか。cry、weep、sob、blunder、whimper――いずれも「泣く」を意味する英語の動詞…
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「死亡偽装」の先にある異様な世界
取り返しのつかない失敗をやらかしたり、苛酷な状況に追い込まれてしまったとき、誰しも人生をリセットしたいという思いが頭をよぎるのではないか。 リセットする手っ取り早い方法は、時間をさかのぼって…
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子どもが「死ぬ」を「死む」と言い間違える理由
「か」にテンテン(濁点)がついたら「ga」だよね、「さ」にテンテンがついたら、そう「za」だね。それじゃ、「は」にテンテンがついたらなーんだ? 文字を覚えたての子どもにこんな質問をすると、「ga」とか…
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主人公は書架に住んでいる推理作家の“複生体”
奇想とは、普通では考えつかない奇抜な考えのことだが、本書を読み始めてすぐに「蔵者」という言葉が出てきて思わず首をかしげたが、読み進めていくうちに、なるほど、と思うと同時に、よくぞこんな設定を考えつい…
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本を集める真の意義は「自由」の象徴
もう40年近く前のことだが、「真空地帯」「青年の環」などを書いた作家、野間宏の東京・小石川の自宅を訪れたことがある。玄関を入るとすぐ目の前に階段がありその両側に本がうずたかく積まれていて、部屋のあち…