あえて事件の「真ん中」から語る異色作

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「私たちが姉妹だったころ」カレン・ジョイ・ファウラー著、矢倉尚子訳/白水社 3000円+税

 ミステリーのジャンルのひとつに倒叙ミステリーがある。最初に犯人が明かされ、そこから遡って犯行に至る過程、犯行の動機などが徐々に明かされていく手法で、「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」などでお馴染みだろう。いわば結末から始まるわけだが、本書は物語の「真ん中」から始まるという、なんとも変則的な方法で語られていく。

 語り手のローズマリー・クックは2012年現在で38歳。彼女が5歳のときに双子の姉ファーンが行方不明になり、その後、兄のローウェルが失踪して家族がバラバラになってしまう。

 物語が始まるのはファーンがいなくなったときと現在とのちょうど真ん中の1996年。読者は最初、17年前に姉が、その7年後に兄がいなくなったという情報だけ与えられ、いきなりカリフォルニア大学でのローズマリーの学生生活の中に投げ込まれる。その年の秋、ローズマリーはエキセントリックな女子学生ハーロウの痴話喧嘩の巻き添えを食って警察に逮捕されてしまう。

 そんな騒動を語っていく中で、ローズマリーの父親は動物行動心理学を専門とする心理学者で、姉が失踪したのは妹の心ない言葉が原因であり、兄の失踪もそれに関係しているらしいことがわかる。長い間その記憶に蓋をしていたローズマリーだが、逮捕劇をきっかけに兄と再会し、その蓋が開けられていく――。

 とまあ、これだけ書けばよくある家族崩壊と再生の物語のように思われるが、実は途中で大きなサプライズが待ち受けている。それを最初から明かさないことがこの異色小説の核であり、そのために「真ん中」から語る必要があったのだと判明する。その核が読者に問いかけるものは重く、最後の姉妹の再会もまた彼女らが経験せざるを得なかった辛苦を静かに訴えかけてくる。

 全米でベストセラーとなり映画化もされた「ジェイン・オースティンの読書会」の著者だけに、そこここに仕掛けが満載で、再読必至。

<狸>

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