故郷を追われた中東の秘教の今

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「失われた宗教を生きる人々」ジェラード・ラッセル著、臼井美子訳 亜紀書房/3700円+税

 先日、IS(イスラム国)の最大拠点のモスルが陥落したと報じられた。モスル周辺はヤズィード教というゾロアスター教以前のイラン系多神教の末裔である宗教を信仰している人々の居住地域であった。

 ヤズィード教はイスラムでは悪魔とされているクジャクの天使マラク・ターウースを信仰していることから、イスラム教徒から「悪魔崇拝教徒」とされて、その昔から激しい迫害を受けていたが、ISもまた彼らを虐げ、故地から追放した。

 ヤズィード教は輪廻転生を信じ、カースト制度を維持し、レタスを食べることを禁じるなど、独自の信仰を貫いてきたのだが、その実態はほとんど知られていない。中東=イスラムと思いがちだが、この地には古来さまざまな宗教が存在し、その宗教地図は複雑なモザイク模様を形成していた。

 本書では、ヤズィード教の他、グノーシス教の名残であるマンダ教、ササン朝ペルシャの国教だったゾロアスター教、イスラムの少数派のドゥルーズ派、ユダヤ人の一派のサマリア人、東方教会の一部であるコプト教、インド・イラン共通時代の原始宗教を伝えるカラーシャ族という7つの宗教・宗派を紹介している。著者は英国と国連の元外交官を務め、アラビア語とペルシャ語が堪能。IS支配地域も含めて現地に足を運び、彼らの生の声を記した貴重な記録だ。

 中東の政治情勢は、彼らの多くを故郷から追いやり、新たに南米や米国などの異国の地で信仰を維持している。とはいえ、環境の変化は信仰の変容を促し、その存続は風前のともしびといっていい。一つの宗教が消えることは一つの歴史と文化が消えることで、取り返しがつかない。それに抗するには、その小さな宗教のたどってきた歴史と現状の姿を「知る」ことが何よりも大事なのだと、この本は教えてくれる。 〈狸〉

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