シネマの本棚
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次第に夢幻の気配を強める男の旅
映画館は夢を見る場所。「緊急事態」の下で痛感したのがそれである。自宅に5K映像の大型モニターがあったとしても、映画館の座席で見上げるスクリーンに勝るものはない。改めてそう感じるのは筆者だけではないだ…
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映画館の復活を夢見る男たちのドキュメンタリー
新型コロナウイルス禍で映画館の休止が依然として続く。対抗策として始まったミニシアター系中心のオンライン配信網も本欄で紹介したが、今回はいったん封切りされながらも突然の騒ぎで中断し、再公開を待つ映画に…
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トラウマを退治する「心の魔術師」の仕事ぶり
かつて「カルト映画の王位」と呼ばれた奇想の映画「エル・トポ」。日本公開は80年代半ばだったが、60年代サイケデリック文化のエッセンスそのままで、名状しがたいめまいを覚えたものだ。 その監督ア…
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「精神0(ゼロ)」老いを微笑とともに受け入れた精神科医のドキュメンタリー
新型ウイルス禍で世間は大混乱。街の映画館も軒並み休館し、新作の封切りも先行き不透明のまま延期になった。大手の映画会社やシネコンならまだしも、これでは単館ミニシアター系はたまらない。 そこで立…
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監視国家のイヌ役に徹したジョン・グッドマン
都知事の「外出自粛」令で前回紹介した「ハリエット」まで公開延期になった。さながら戒厳令の体で、街でも人の影が薄い。まるでSF映画の廃虚を見ているようだが、今週末封切りの「囚われた国家」はまさしくそん…
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いまもつづく差別と抑圧の現実に思わず襟を正す
新型コロナウイルス禍のさなかでも見逃せない春の新作。それが来週末封切りの「ハリエット」だ。 19世紀半ばの米南部で農園を脱走し、奇跡的に北部の自由州に逃れた女奴隷ミンティことハリエット・タブ…
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現実の名建築を借景した“建築映画”
映画と建築は相性がいい。映画のセットはもともと空想の家や町のようなもので、未完の建築がスクリーン上だけ実現した例もある。来週末に都内封切り予定の「コロンバス」は、逆に現実の名建築を借景した“建築映画…
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女子による女子のための女子の物語
韓国映画が米アカデミー賞で話題。昨今の「多様性ばやり」の結果とも、米映画界の企画力低下の反映ともいわれるが、安直な印象のリメーク物にも意外な変化がある。今週末封切りの「チャーリーズ・エンジェル」もそ…
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構想30年、幾多の挫折を経てついに完成
世界的に古典として知られるのに、専門家以外、最後まで読み通した読者がほとんどいない二大小説。答えはダンテの「神曲」とセルバンテスの「ドン・キホーテ」なのだそうだが、その映画化に挑んで構想30年。幾多…
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殺人事件を追ううちに都市計画の闇に…
原作小説の映画化で原作も映画もいいという例は少ない。でもまれにある成功例。先週から都内公開中の「マザーレス・ブルックリン」がそれだ。 同名原作は99年。舞台も同時代で、分裂症めいた現代ニュー…
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拳闘家の悩みや迷い、失いかけた情熱
昔はボクサーのことを日本語で「拳闘家」なんて言ったものである。いいですねえ。 腕自慢だがごく普通の若者が、勝ったり負けたり、笑ったり泣いたりしながら、ボクシングという孤独なスポーツを生きてい…
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画面いっぱいにあふれる新旧のベトナムの女性風俗
1990年代半ば、国交正常化後のベトナムを初めて旅して、20年後に再訪したとき、あまりの違いに言葉を失った。 かつては60年代の戦火の跡がまだうかがわれた国が、成長著しい東南アジアの都会に変…
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脱力系のテンポが秀逸なパレスチナのコメディー
いまや中国にドイツにと世界中のテレビ局が王朝物や陰謀物の大型ドラマで人気を競っているが、パレスチナも似た状況とは知らなかった。先週末封切られた「テルアビブ・オン・ファイア」はそんな意外性から始まる傑…
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間接表現で描くキューブリック伝記映画
亡くなった人物の生涯を描く手法に「本人自身より周囲の人間との関わりを描く」というのがある。いわば間接表現の伝記だが、いま、この映画版の面白いドキュメンタリーが同時公開されている。「キューブリックに愛…
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ハノイのおしゃれな民俗雑貨店内のような映像美
かつてベトナムブームのきっかけにもなった映画「青いパパイヤの香り」。製作当時はまだドイモイも道半ばで、戦禍の傷痕あらわなベトナムではロケもできず、撮影はフランスでセットを組んだという。しかしあれから…
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映画の余白にあふれ出す気迫と胆力
小説や映画には時代の空気を敏感に反映するだけでなく、社会のわだかまりや問いかけに応答し、道を示そうと試みるものがある。先週末封切りの「典座」をそんな一作というと、まるで教育映画みたいに響くだろうか。…
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若者はいらだたしさを生きるしかない存在
若さにはかけがえのない価値があると人はいう。が、その価値は可能性という名の「まだ実現されてない価値」。つまり若者は、若さの価値を自分自身では手にすることができないという意味で、いらだたしさを生きるし…
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共感疲労で殉職した英国女性記者の実話
ジャーナリズムの世界に「共感疲労」という言葉がある。紛争や災害の現場報道で心を痛めるあまり、犠牲者や被害者のトラウマを自分も引き受けて燃え尽きてしまうことだ。救命士なども同じ立場だが、欧米では特に報…
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切り紙細工のような独特な画風が魅力
今やアニメは世界中で人気だが、製作技法まで宮崎アニメやディズニー優位とは限らない。特に欧州は人形アニメをはじめ多様な技法が盛ん。先週末から公開中の「ディリリとパリの時間旅行」はその最新の一作である。…
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みじめな民衆の姿を尊厳と共に描く弾圧事件
映画を見る楽しみのひとつが「光」の美しさだ。ライティングが丁寧な映画は、昔の白黒映画でも目が洗われるような体験にあふれている。 先週末から公開中の「ピータールー」もまたそんな感動をもたらす新…