シネマの本棚
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共感疲労で殉職した英国女性記者の実話
ジャーナリズムの世界に「共感疲労」という言葉がある。紛争や災害の現場報道で心を痛めるあまり、犠牲者や被害者のトラウマを自分も引き受けて燃え尽きてしまうことだ。救命士なども同じ立場だが、欧米では特に報…
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切り紙細工のような独特な画風が魅力
今やアニメは世界中で人気だが、製作技法まで宮崎アニメやディズニー優位とは限らない。特に欧州は人形アニメをはじめ多様な技法が盛ん。先週末から公開中の「ディリリとパリの時間旅行」はその最新の一作である。…
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みじめな民衆の姿を尊厳と共に描く弾圧事件
映画を見る楽しみのひとつが「光」の美しさだ。ライティングが丁寧な映画は、昔の白黒映画でも目が洗われるような体験にあふれている。 先週末から公開中の「ピータールー」もまたそんな感動をもたらす新…
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70年代に米アングラ界を席巻したSMガイの一生
近頃は中国やインドの映画でさえ国際商品めいて、「におい」がしなくなった。と思っていたら、意外なところに伏兵がいた。北欧である。 たとえば実在の乱射テロ事件を描いた今年3月の「ウトヤ島、7月2…
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フェイクぎりぎりのスリリングな風刺劇
南米ウルグアイ。世界に知られた名産はサッカー選手のルイス・スアレスぐらい、というのはウルグアイ人得意の自虐ネタだが、実は世界で初めて大麻を完全合法化したのが同国。昨年10月に解禁したカナダは有名だが…
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冷戦下のポーランドで数奇な運命をたどる男と少女
ベルリンの壁の開放から今年で30年。しかしその前の40年間、ベルリンとドイツはふたつに分断され、冷戦の巨大な壁は世界に厳然とそびえていた。先週末から公開中の「COLD WAR あの歌、2つの心」はこ…
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絶海の孤島からの脱獄物語が44年ぶりにリメーク
スターになった時期が違い過ぎて意外な話に聞こえるのだが、クリント・イーストウッドとスティーブ・マックイーンは実は同い年。前者は60年代末までマカロニ西部劇のドサ回り(?)に甘んじたが、30歳そこそこ…
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社会の秩序への疑念に目覚めた子どもたち
キリスト教系の小学校に通う子どもたちは、小3ごろまで「イエス様」を素直に信じている。だが、もう少し経つと怪しくなり、やがて「イエス様っていないんだよ」と言い出す。それは社会の秩序というものが「あてが…
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一人一人の小さなエピソードがやがて夢幻譚へ
チンチン電車が好きだ。子ども時代は東京と福岡。その後も神奈川、広島、鹿児島、札幌、函館、熊本、高知……と現存する国内はほぼ乗ったし、外国は東アジアの香・台・中から、欧州なら英・蘭・伊・仏・西・独・墺…
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いまやアイドル人気のギンズバーグ老判事の人生
いま米政界が密かに固唾をのんで見守る案件が最高裁の判事指名問題。それは昨秋すでに決着したでしょ? といわれそうだが、実はいまや少数派のリベラル派判事のうちルース・B・ギンズバーグは最高齢で、最近も肺…
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ナチスの美学は“美的な成り上がり”趣味
歴史上、独裁者は数あれど、この男ほどの芸術かぶれも珍しいだろう。アドルフ・ヒトラー。ドイツ軍によるパリ占領の際、彼がまず駆けつけたのは大統領府のエリゼ宮ではなく、芸術の華とうたわれたオペラ座だったの…
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「病んだ時代」に立ち向かう孤独
いつの間に世の中は、これほど悪徳まみれになってしまったのだろう。目を覆う偽善や欺瞞に加え、身勝手と無関心までがかくも広まったのはなぜなのか。――そう語りかける映画が今週末封切りの「魂のゆくえ」である…
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マニアたちが広大な墓場を再現
グローバル化の時代は「聖地巡礼」も世界現象。むろん、サンティアゴ巡礼やお遍路ではなく、人気映画のロケ地巡りのこと。その好例が現在都内公開中のドキュメンタリー「サッドヒルを掘り返せ」だ。 かつ…
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復興と再建のベイルートで働く難民労働者
「3.11」東日本大震災から丸8年。今もそれを語る人はもはや少ない。 「復興」とは果たして何なのだろう。来週末封切りの「セメントの記憶」は、そんな問いを図らずも連想させるドキュメンタリー映画であ…
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多文化主義政策を敵視する男がキャンプ場を襲撃
昨秋、北欧に滞在して本業の社会学者の仕事をした。欧州の移民排斥運動とその影響の調査である。実態は聞きしに勝るもので、「理想の福祉国家」がいかに同質的な社会だけを暗黙の前提にしてきたか思い知らされたも…
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平穏だが退屈な田舎町で男たちが再会し…
樹木希林と市原悦子があいついで亡くなって、ふたりを称える記事が目立った。しかし彼女らはあくまで対照的な女優。若くして新劇のスターだった市原は堂々たる舞台芝居で、テレビに出ても画面からはみ出そうな迫力…
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救いのない格差社会・香港の現実
香港映画といえばその昔から、荒唐無稽と俗受けが本領。香港ノワールなどを見てスタイリッシュと勘違いする若者もいるかもしれないが、あれは往年の日活映画と同じ通俗きわみのたまものだ。 ところが、そ…
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クルド人「女戦士」の復讐と悲哀
先の米議会中間選挙では女性議員の躍進、特に軍人出身の女性が多数、議員になったことが話題になった。だが、職業として軍人という名の公務員になることと「女戦士」になることは違う――と、そんなことを考えたの…
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「マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!」
若者が年寄りに心を開くのは、年寄りが若者だったころの話を聞くときだ。単なる昔話や自慢じゃない。目の前の年寄りが、自分と同じようなそそっかしく向こう見ずな若者だった時代の、心躍る冒険や歓喜をつい昨日の…
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「人種の壁」を越えた夭折の天才黒人画家
音楽やスポーツの世界で成功したアメリカの黒人は多いが、美術となると一気に少なくなる。一般にも名を知られた現役アーティストとなると皆無に近いといっても過言でないだろう。しかしその例外がジャン=ミシェル…