十二の眼
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                         (64)叫んだりしたら酷い目にあうよ「……ちょっと」 その瞬間だった。 青年は思い切り頭を振りかぶり、渡部の鼻に頭突きを入れた。 「うが!」 渡部は床に倒れ、もんどり打つ。真っ赤な鮮血が床に流れた。 … 
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                         (63)乾いた音と左手の冷たい感触……最初に、右ストレートをぶち込んどくか。 渡部はこの緊迫感のなかで妙な高揚感さえ覚えてきた。よく見れば、やはりただの美しい青年だ。見ようによっては、どこにでもいるヤサ男にさえ見えてくる。よ… 
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                         (62)今日は訊けるだけ訊いてやる「ああ……渡部さんもいよいよ本腰を入れて記事にされると思って、すべてを話しておいたほうがいいかな、って」 「助かります」 渡部は記者の顔つきになる。 「あ、その前に、いつものいいで… 
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                         (61)脳内で庄子の言葉が駆け巡るだが──おれは記者だ。全国五大紙の奴らと違い、多くの修羅場をくぐって来た。そうしないと生き抜いてこれなかった。 渡部は自らの恐怖を必死に呑みこむ。 ──こいつがほんとうに4×3なら、… 
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                         (60)ドアの鍵を閉める音が聞こえた「渡部!」 「もしかしてこの情報源が……4×3ってことか? 矢島紗矢を殺した」 庄子は答えられない。 「沈黙が答えだな。庄子さん、わかってるだろ? 夕刊紙の記者なんて、危険がつきも… 
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                         (59)この男がおまえの情報源か「おい」 「……聞こえてるよ」 「もういちどしか言わねえ。ほんとうに、おまえの身が危ない」 渡部が電話のむこうで、唾を呑みこむ音が聞こえた。 「……危ないって、どういうことだ… 
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                         (58)渡部、いまおまえ、どこにいるすると、堂前が呟くように言った。 「事件にもなっていない噂話を公に広めてくれる媒体……」 その言葉を聞き、林檎は庄子が持ちはじめた疑問の点と線がつながった。林檎はふたりにむけて言った。… 
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                         (57)庄子の視線を受け林檎が挙手すると、血相を変えた捜査一課の刑事が、部屋に走り込んできた。捜査員は、いまにも叫び出しそうな顔で、前方に座る係長を見る。 「ありました!」 「どうした!」 「……四年前の二〇二〇年… 
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                         (56)上がって。なにもないけど「ここだよ」 ユキという女が案内してくれたマンションは、BARからほど近いところにあった。マンションといっても三階建てのちいさな造りで、もちろん高級マンションのようなエントランスもない。階段を… 
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                         (55)彼女と別れちゃった系?「いくつなの?」女が問うた。 「二十四」 「あ、じゃあわたしのひとつ年下だ」 女はメンソールの電子煙草を取り出して、吸った。 「ねえ、ほんとになんの仕事してるの?」 「… 
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                         (54)丁度よさそうな小さなBAR駅近くの繁華街を歩くと、巨大なゴジラがビルの屋上に張りついている。 その近辺には最近テレビのニュース番組でも話題に取り上げている、「トー横キッズ」と呼ばれる若者たちが屯していた。 が… 
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                         (53)目深な帽子姿のまま人混みへ「食え」 「いただきます」 林檎はレンゲを持ち、熱々のスープをすくって口に入れた。 「す……っぱ!」 庄子が腹を抱えて笑った。 「酸っぱいだろ」 「……半端ない… 
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                         (52)井戸の底にいる相手を見ていたつもりが「でも……さっきおふたりが言った言葉、なんか響いたな」 「なんだよ」 「記者の渡部のことを評した、堅気じゃないって言葉です」 「……ああ、あれか?」 「はい。なんか、わたしもそ… 
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                         (51)奴らの鉄則は情報は得るが人は信じない「でも別に、公安から刑事部に行くことは、なくはないんですよね」 「なにがあって公安から移ったのかは知らねえ。それに、堂前は悪い刑事ではない。それはわかってる」 林檎は庄子が、素直に堂前を… 
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                         (50)林檎。堂前には気をつけろそして、もうひとつ、自分に言葉をくれた。 ──おまえは、そこらの男の刑事より根性と思いがある。で、良いところではあるんだが、積極的に意見を言いすぎる時がある。この組織は階級社会だからな、それ… 
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                         (49)なんで最初の会議で言わなかった〈本紙独占スクープ! 人気女子アナ矢島紗矢は、なぜ殺されなければいけなかったのか! その驚愕の真相とは!? そして──4×3は本当に存在するのか?〉 一面には矢島紗矢が清純な雰囲気で微笑んでい… 
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                         (48)うまい店連れていってやるからよいまや梅雨なのかゲリラ豪雨なのか、わからない時代になったな、とふと林檎は思う。 年配者はよく口にするが、二十七歳の自分が幼かったころだって、こんな気候ではなかった。 庄子と林檎はコン… 
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                         (47)堂前って人、クールな感じじゃないすると、部屋にいた同期の結城真美が、捜査員の指示を聞き終えた姿が見えた。林檎は結城の元へと足を運んだ。 「結城」 デスクを担当する結城真美は、林檎の顔を見るとすこし息をついた。結城は他… 
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                         (46)女性が病院前に捨てられた事案庄子も林檎も、堂前を見た。堂前は冷静を超えて、まるで冷ややかにさえ見えた。 「情報源の存在が確かなら、渡部にとってその人間は今後の記者生命をかけても守らなくてはいけない。いま追及したところで口… 
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                         (45)情報源がいるのは確かだろう「記事のためだったら、あいつは平気で嘘もつく。事実を歪曲させてでもな。だけどあいつがさっきおれに見せた態度から見るに、情報源がいるのは確かだと思う……刑事として、おれにはわかる」 階段を睨みな… 

 
                             
                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                     
                     
                     
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
         
         
         
         
         
         
        