十二の眼
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                         (84)暗幕の前に布を被せられた男「なに?」 「『プロ野球速報』という、試合の結果を垂れ流すチャンネルがあったそうなんですが、それが先ほど……『4×3の部屋』というチャンネル名に変更されたみたいなんです。そして字幕で、“『名もな… 
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                         (83)タクシーに飛び乗り麻布署へ林檎は順平の言葉を聞き、自分の基礎──を思い出した。 決して忘れることなどない、自らの心の奥底を。 「刑事辞めたら、友梨香は怒るかね」 「怒んないでしょ。そんな奴じゃないじゃん」… 
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                         (82)二度と被害者を出したくない順平は、描いている手を止めた。 「いつかは終わる……ってことなんじゃないかな。コード進行が決まっていないのが、犯人に振り回されるということだとしても、そこには犯人の動機──これがミュージシャン… 
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                         (81)事件の捜査はフリージャズとおなじ順平ならこの質問の答えがわかるかもしれない。 林檎は筆を進める順平に、訊いてみた。 「あのね、今回のチームに、本部から来た堂前さんっていう警部補がいるの」 「うん」 「その… 
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                         (80)順平のカレーは脳天にまで響く辛さ林檎は交際している、真中順平の部屋にいた。 LINEで〈いまからすこし、そっち行っていい?〉と打つと、〈オーケー。了解〉と短い返事があり、林檎は順平の家に辿り着いた。実家に帰ろうかとも思った… 
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                         (79)堂前が言った言葉を思い出す取りあえず、干しっぱなしの洗濯物のなかから、四日分の下着や靴下を取る。 白いワイシャツも、おなじ日数分ベッドの上に投げた。 ──勝負は一週間。 そう決めていた。願をかけるよう… 
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                         (78)犯人は必ず自分から出てくる──林檎って、果物の林檎ってこと? ──そうらしい。 ──ちょう可愛いじゃない! いくつなの? ──二十七歳って言ってたかな。 ──そうなんだ。独身? ──そ… 
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                         (77)堂前が美千代にむかって微笑む堂前はBMWを飛ばし、自宅へ戻った。 車を駐車場に停めて降りると、自宅を挟んだ通りの反対側にある場所に目を移す。毎回の決め事だった。 そこには派出所があり、制服警察官が二名、勤務して… 
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                         (76)気が利かず申し訳ない庄子は驚き、堂前を見る。 「居場所がわからないっていうのか?」 「ええ。もし4×3がそうしたのであれば、SIMカードを抜けば居場所は掴まれないと認知しています。まあ、いまやネットの影響で… 
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                         (75)運が良ければ生きているでしょう堂前は照れたように、いちどだけうなずいた。 「一緒にこの事件、片づけよう」 「もちろん。そのつもりです」 庄子は安心した様子で見守っている林檎を見た。 「なんだよ」 … 
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                         (74)どうしてもこのバッジが必要なんです「誰にやられた」 「日本がひた隠しにする、スパイです」 「スパイ?」 「とある宗教事件にも、絡んだ」 「名前は。どんな奴だ」 堂前は庄子の横にいる、林檎にも視線を送った… 
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                         (73)胸の奥が締めつけられる大会議室。 特に事件の進展は見られない。 捜査員たちは散り散りに、事件の論議を交わしている。 庄子はパイプ椅子に座り、こめかみに手をやって揉んでいた。 頭が割れるよう… 
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                         (72)警部補の奥様は躰が動きません永井の言葉に、庄子の頬がぴくりと動いた。 「堂前警部補は、どこかをほっつき歩いているわけでも、誰かと会っているわけでもありません……警部補は、ご自宅に戻られているだけです」 庄子が眉根… 
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                         (71)すみません、話が聞こえたもので堂前は短く話し終えると電話を切り、戻ってくる。 「申し訳ありませんでした」 庄子が低い声で、問うた。 「……誰からだよ」 堂前は、透明な眼鏡の奥にある目で、庄子を見る。 … 
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                         (70)犯人はひとりじゃない可能性堂前と違い、つよい口調で訊く庄子の問いに、グエンはあきらかに動揺していた。 「男か、女か」 「男」 「年齢は」 「ほんと……遠かったから、わからない」 「背丈は。太って… 
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                         (69)返しに来たのは同じ男か「ほんとうに知らない人?」 「はい」 「どうやって、その人物から接触があったんですか?」 「働いているコンビニから帰るとき……店を出て、しばらくしたら声をかけられて」 「……S… 
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                         (68)一語一句間違えずに読め誠はパソコンを起動する。 かたかたと彼が打つキーボードの音が、しずかに部屋に響く。 「プロンプターの意味はわかるな?」 「キャスターがニュースを読み上げるとき、自分の正面の機械に… 
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                         (67)さっき知り合ったばかりだけど誠はよれたラグマットを、丁寧に元に戻していく。 「大手の新聞社とか……雑誌社とか、そっちの方がいいだろ」 「噂レベルの話を、どこまで信じてくれるかなと思ってね。それに冗談じゃなく本気で、… 
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                         (66)薬物の過剰摂取で死んだんだぜ?「いや……そんなことない。驚いて、なにも言えなかっただけだ」 「そうか。まあ、いい」 すると青年はまた立ち上がり、バッグのなかを漁り始めた。 黒いおおきな布を取り出し、養生テープ… 
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                         (65)おれのほんとうの名前は鼻からはまるで滝のように、血が流れ落ちた。 「すこしは真っ直ぐになりましたよ。あなたの心も、これくらい真っ直ぐになったらいいのにね」 青年は笑みをたたえながら、渡部を見つめた。 … 

 
                             
                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                     
                     
                     
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
                                 
         
         
         
         
         
         
        