五木寛之 流されゆく日々
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連載12112回 多病息災の思想 <5>
(昨日のつづき) きょうは御茶ノ水駅の近くの高台にある大学病院にいった。 病院は死ぬほど嫌いなのだが、仕方がない。 毎回、驚くのはその混雑ぶりである。呆れるほどの人混みだ。 世の中には…
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連載12111回 多病息災の思想 <4>
(昨日のつづき) <噛めば噛むほど味がでる>というのは本当か。 ためしに今朝、朝食についてでた塩ジャケをひときれ、口に運んで噛んでみた。50回噛んでドロドロになったところを、さらに噛む。 1…
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連載12110回 多病息災の思想 <3>
(昨日のつづき) <噛む> <寝る> <動く> 私が心がけている3つのことだ。ほかにもいろんな細かい事はあるのだが、基本はこの3点だと決めている。 人は食べなければ生きていけない。しかも…
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連載12109回 多病息災の思想 <2>
(昨日のつづき) <健康記事もクスリの一つ> と、いうのはイイですね、と、共感してくれる読者がいた。ちゃんと読んでくれている読者もいるんだ。ありがたい事である。心して原稿を書かなければ。 <多…
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連載12108回 多病息災の思想 <1>
<無病息災〉という言葉がある。 息災というのは仏教用語らしい。<息>というのは<とどめる>の意。 しかし、この表現にはどことなく異和感がある。人はそもそも老化という宿命を背負って生きているのだ…
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連載12107回 連休の間に読んだ本 <5>
(昨日のつづき) チェルヌイシェフスキーの文章は、難解だといわれる。帝政下のツァーリの厳しい検閲下に書かれた文章、いわゆる<イソップの言葉>で書かれているからだ、と。 しかし、用心深くなりすぎ…
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連載12106回 連休の間に読んだ本 <4>
(昨日のつづき) <迷路のように入り組んだ文章>などと書くと、作者の思考が超難解であるか、書き手が頭が悪いか、そのどちらかだろうと思いがちだが、チェルヌイシェフスキーは日本語訳で読む限り、練達の思想…
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連載12105回 連休の間に読んだ本 <3>
(昨日のつづき) エンターテインメントの秀作を何冊か読んだあとに、チェルヌイシェフスキーの『宛名のない手紙』を読む。 ニコライ・チェルヌイシェフスキーは『何をなすべきか』という作品で有名な、帝…
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連載12104回 連休の間に読んだ本 <2>
(昨日のつづき) 歳をとると誰でもボケる。ごく自然のことだ。 自然の成り行きには、道理がある。いい歳をして頭が冴え渡っているのでは生きていけない。多少、ユルくなってきているからこそ、高齢者もの…
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連載12103回 連休の間に読んだ本 <1>
連休中に、いろんな本を読んだ。 日頃、折りがあったら必ず読もうと考えて机の横に積みあげてあった本の中から、何冊かを引っぱりだしてページを開く。 しかし、これがなかなか読めないのだ。いつか読ま…
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連載12102回 五月は悩ましき月 <3>
(昨日のつづき) 明日は雨の予報だが、外出の予定はないので、一日ずっと部屋にこもって過ごすつもり。 新しい書店がオープンしたと聞いて、昨日、虎ノ門ヒルズまで出かけていったのだが、結局、みつから…
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連載12101回 五月は悩ましき月 <2>
(昨日のつづき) 人に会って打ち合わせをする日が続く。 「いい加減、人にまかせて、のんびりしていたらどうですか」 と、言われたりもするが、ほかの事はともかく仕事に関しては「おまかせ」というわ…
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連載12100回 五月は悩ましき月 <1>
五月。 私にとって五月は、一年中でもっとも悩ましい季節だ。 まず気温が一定していない。寒かったり、暑かったりする。 そのつど着るものに苦労することが多い。 外はポロシャツ一枚で十分で…
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連載12099回 寒い夏への予感 <4>
(昨日のつづき) あい変らず厚手のジャケットを着て、都内のホテルへ。 きょうはテレビの音入れ収録である。5週分の番組コメントを夕方までにやらなければならない。 番組とはテレビ金沢の『新金沢…
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連載12098回 寒い夏への予感 <3>
(昨日のつづき) もう5月だというのに、厚手のツイードの上衣を着ている。 何十年も前に買ったものだが、ぜんぜん傷んでないし、なによりも暖かいのだ。 初夏ちかくなって暖かい上衣というのもヘン…
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連載12097回 寒い夏への予感 <2>
(昨日のつづき) きょうは午後から佐藤優さんとの対談。これで第3回目の討論である。 例によって私の話が右往左往するので、司会役の相馬さんは対談が脱線しないようにリストを用意して、断乎、編集方針…
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連載12096回 寒い夏への予感 <1>
暑かったり寒かったり、晴れたり小雨が降ったりと、不安定な日々が続いている。 街を歩いている人たちは、すでに初夏っぽい粧いをしているが、私はまだツイードの上衣が手放せない。 今年は寒い時期から…
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連載12095回 「昭和歌謡」の複雑な顔 <6>
(昨日のつづき) 私は若い頃、といっても30代から40代にかけての時期だが、いくつもの歌謡曲をテーマにした小説を書いた。 歌謡曲の製作にたずさわるレコード会社のディレクター、<高円寺竜三>を主…
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連載12094回 「昭和歌謡」の複雑な顔 <5>
(昨日のつづき) ひと言で<昭和歌謡>というが、実際には、大きく分けて3つのブロックを考えたほうがいいだろう。 私たち後期高齢者にとっては、<昭和歌謡>は戦前の流行歌である。昭和初年あたりから…
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連載12093回 「昭和歌謡」の複雑な顔 <4>
(昨日のつづき) <詩>は、言葉だけで独立した作品。 <詞>は曲がつき、歌われることを前提とした未完の言葉。 そこに厳密な区別はないものの、そんなふうに私は区別している。専門の作詞家で、名刺の…