五木寛之 流されゆく日々
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連載12081回 七五調は消えるか <1>
これまで何度も書いたことだが、平安時代に大流行した巷の歌に「今様」というのがある。 「今様」。 文字通り「その時代の世の中の空気を如実に反映した歌謡」とでもいえるだろうか。当時の人々の喜び、悲…
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連載12080回 死をどう考えるか <5>
(昨日のつづき) 私は現在、92歳。今年の秋には93歳を迎える。 自分でも信じられない位に長く生きた。この日刊ゲンダイの連載をはじめてからでも、すでに50年が過ぎている。 父も、母も、そし…
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連載12079回 死をどう考えるか <4>
(昨日のつづき) 昭和ヒトケタ生れの私にとって、戦時中の少年時代は、常に死を考える日々だった。 子供が死を考える、などというとナンセンスにきこえるだろうが、事実だったのだから仕方がない。戦争の…
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連載12078回 死をどう考えるか <3>
(昨日のつづき) 日本中が大谷選手の話題で沸き返っているときに、縁起でもない「死」の話などしていていいものだろうかと、いささか心配になっていた折りに、『週刊新潮』を読んでホッとした。 横尾忠則…
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連載12077回 死をどう考えるか <2>
(昨日のつづき) もう、ずいぶん昔のことになるが、文藝春秋本誌で、『うらやましい死に方』という特集を組んだことがあった。 全国の読者から、身近かな人々の死に方で、うらやましく思った実例を報告し…
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連載12076回 死をどう考えるか <1>
数日前の新聞に、昨年の小中高生の自殺についての短い記事がのっていた。 統計をとりはじめて以来、もっとも多い数字がでたという。 高齢者の自殺数はどうなのか。この秋には93歳を迎える私としては、…
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連載12075回 横山剣の自伝を読む <2>
(昨日のつづき) 横山剣の音楽的自伝『マイ・スタンダード』(小学館文庫)は、本文だけで570ページをこえる超分厚い文庫本だ。私が学生時代に愛読した<アテネ文庫>の5冊分ぐらいは優にあるだろう。 …
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連載12074回 横山剣の自伝を読む <1>
金沢のアートホールで弦哲也さんと『弦楽器をめぐるパフォーマンス』をやったあと、こんどは東京で横山剣さんと対談をした。 横山剣さんは作曲家である。そして<クレイジーケンバンド>のリーダーだ。 …
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連載12073回 金沢に「弦」を聴く <3>
(昨日のつづき) 私は若い頃、しばらくレコード会社の専属のアーチストとして働いていた時代があった。 学芸部に所属し、保育童謡とか、名曲アルバムの制作とか、いろんな仕事をしたものだった。『鉄腕ア…
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連載12072回 金沢に「弦」を聴く <2>
(昨日のつづき) 弦哲也さんとは、かなり以前からのおつきあいである。 NHKのラジオ深夜便で歌をつくったとき弦さんに曲をお願いした。部屋を借りて、ああでもない、こうでもないと歌づくりにはげんだ…
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連載12071回 金沢に「弦」を聴く <1>
金沢にいってきた。 ちょっとしたパフォーマンスをやるためである。 私がテレビ金沢で出演している『新金沢百景』という番組が、折り折りに催しているステージに参加するためだ。 この番組がはじま…
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連載12070回 スポーツと私 <4>
(昨日のつづき) このところメジャーリーグの来日と、大谷選手の活躍で、野球界はお祭り騒ぎだ。これだけ期待されて、その期待に答える活躍ぶりをみせる大谷選手は凄い。本人の才能プラス何かが憑依していると…
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連載12069回 スポーツと私 <3>
(昨日のつづき) 中学生の頃は卓球をよくやった。もちろん部活とか、そんな本格的なものではない。近くの公民館に出かけては、その辺のヒマ人を相手にラケットを振り回す程度の遊びである。 高校にはいる…
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連載12068回 スポーツと私 <2>
(昨日のつづき) 少年の頃、といっても戦時中の話だが、いちばんやったのは剣道だった。父親が有段者で武徳会の役員などもつとめていた男だったから、冬でも毎朝、叩きおこされて木刀の素振りなどをやらされた…
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連載12067回 スポーツと私 <1>
私はスポーツが好きだ。 だが、スポーツマンではない。体格も貧弱だし、運動神経も普通以下だろう。 それでも何か運動をすることが好きだし、またスポーツを観ることも好きだ。テレビ中継でプロ野球、そ…
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連載12066回 健康ブームの背景 <3>
(昨日のつづき) 言うはやすく、行うは難し。 病気になって対処法を語るよりも、病気にならない未病のコツを知りたい、というのが一般読者の正直な感想ではあるまいか。 前にも書いたが、壮絶な闘病…
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連載12065回 健康ブームの背景 <2>
(昨日のつづき) 世間には<健康法>と<養生>という2つの発想がある。 どちらも予防と治療に関する自主的な対策だ。しかし、中身は同じでも、どこかがちがう。 なんとなく片方が東洋的で、もう一…
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連載12064回 健康ブームの背景 <1>
それをしてジャーナリズムと呼ぶのかどうかはわからない。 朝、新聞を読む。午後に週刊誌を読む。夜、夕刊と月刊誌を読む。 それら活字メディアにラジオとテレビがくわわって、マスコミと呼ばれるのだろ…
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連載12063回 「未完の仏」とは何か ─平岡正明をふり返る─ <2>
(昨日のつづき) <山口百恵は菩薩である> というのは、一世を風靡した平岡正明のコピーである。 幾千幾万の戦後のコピーのなかでも、ベストスリーにはいる傑作だろう。私は彼の著作集のオビを書くに…
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連載12062回 「未完の仏」とは何か ─平岡正明をふり返る─ <1>
ちくま文庫から出ている平岡正明の『ジャズ喫茶伝説』(筑摩書房刊)を読みだしたら、とまらなくなって、仕事を放りだして読んでしまった。 ジャズ喫茶についての本は、ずいぶんある。それぞれの体験談や、時…