(9)老化や視力障害は「夢」を変える? 夢が教えてくれる「脳の映像工場」の仕組み
「その代表的な例が『シャルル・ボネ症候群』です。加齢黄斑変性、緑内障、白内障などによって視力が低下した人の中には、実際には存在しない人物、動物、建物、風景などが見えることがあります。本人は『そこに何かが見えている』と感じるが、周囲の人には何も存在しません。かつて、このような幻視は精神的な問題と誤解されることもありました。しかし現在では、視覚情報が脳に届きにくくなることで、視覚を担当する脳の領域が自発的に活動し、内部に保存された映像情報を使って『見える体験』を作り出していると考えられています」
これは、夢とよく似ている。夢では、睡眠中に外界からの視覚情報がなくても、脳が記憶を組み合わせて映像を作る。一方、シャルル・ボネ症候群では、覚醒中に視覚入力が不足することで、脳が不足した情報を補うように映像を作るとの考え方もある。つまり両者は同じ現象ではないが、「脳が内部の情報から映像を生成する」という点で共通しているのだ。
この仕組みを説明する理論として、近年注目されているのが「予測符号化(Predictive Coding)」という考え方だ。この理論では、脳は外界から入ってきた情報を単純に受け取るのではなく、過去の経験や記憶をもとに「こう見えるはずだ」という予測を作り、その予測と実際の情報との差を調整しながら世界を認識していると考える。


















