(36)「聞き分けのない息子たちに嫌がらせしているのよ」
電話の相手が慕っていた看護師だと知ったおかんは、今までとは別人のような声色で明るく話し始めた。隣の部屋で聞き耳を立てていると、サ高住で降りなかったのは「自宅に寄ってくれなかったから」「仏壇に手を合わせたかったのに……」と訴えていた。いやいや、時間がないことをちゃんと話したじゃない。仏壇のことだってひと言も言わなかったじゃないか。
突っ込みたい気持ちを抑え静かにしていると、「だからね、聞き分けのない息子たちに嫌がらせしているのよ」なんてことまで平然と口にした。そんなぁ、というのが正直な気持ちだった。それでも看護師は何とか説得を続けてくれたようで「そうね、わかっている。けど、今日はここに泊まって考えるつもりなの」とおかん。
思わず「俺は今日中に東京に戻らないといけないから、付き合えないよ!」。
きつく声掛けすると、電話の向こうにも聞こえたのだろう。サ高住に行きなさいと根気よく説得してくれたようで、最後は渋々投降してくれた。なんて手のかかる親なんだ。息子としての気持ちを正直に言えばこうなる。


















