「戦争犯罪と闘う」赤根智子著/文春新書(選者:佐高信)
トランプ批判なしに「法の支配」説く高市の図々しさ
「戦争犯罪と闘う」赤根智子著/文春新書
国際刑事裁判所(ICC)所長の赤根智子に制裁を下したトランプを批判することなく、「法の支配」を訴えた高市早苗を見て、“辛口評論家”といわれた山本夏彦を斬った一件を思い出した。特に権力者のスキャンダルを暴いた「噂の真相」の1992年6月号で私は次のように“筆刀両断”したのである。
山本は「『豆朝日新聞』始末」(文春文庫)でこう言っている。
「大会社大銀行大スーパーはよいことばかりして大をなしたのではない。悪知恵をしぼって他を倒して大きくなったのである。それなのにその張本人である社長が、誠意や正直ばかりを説くとは図々しい」
私も思わず手を叩きたくなるタンカだが、こう書かれても「大会社大銀行大スーパー」は痛くもかゆくもない。これが「三井住友銀行」とか、「トヨタ」とか、「イオン」とか、具体的に書いてあるなら話は違う。しかし、「大会社」といった書き方では、何の批判にもならない。毒舌とか言われた山本の毒は自己消毒された毒だった。その証拠に、固有名詞が出てくるところでは、山本の書き方は礼賛になる。
「テープならソニーだけが一流であとは二流三流ということはない。ソニーが一流ならナショナルも一流である。自動車ならニッサンがよければトヨタもいい。よくなければ落伍するから、一社だけがいいということはない。メーカーが五社あれば五社はほぼ同様に一流である」
こんな山本のマネをしたのか、高市は制裁を下した張本人のトランプを名指しすることなく「法の支配」を強調したが、「いまのところ無事」だという赤根はこの本で、「法の支配」は日本ではよく口にされるが、「単にお題目として唱えるだけでは、大きな脅威の前には簡単に崩れ去るような危うい存在かもしれない」と指摘している。
ICCの資金の世界一の拠出国である日本は残念ながらその活動に積極的に協力していない。125カ国の締約国にアメリカ、中国、ロシア、そしてイスラエルなどの名はない。
私はこれらの国こそ“ならず者国家”だと思うが、プーチンやネタニヤフへの逮捕状を発布したICCの活動はまさに「平和憲法を持つ日本が目指すところ」(赤根)だろう。赤根は、広報の拠点としてICCの事務所を東京に設置したいと考えているという。高市はそんなことは夢にも考えていまい。 ★★★



















