当事者視点から学ぶ規格外を排除する社会の病「認知症の進行を早める生活、遅らせる習慣」丹野智文、恩蔵絢子著/中央法規出版(選者:稲垣えみ子)
「認知症の進行を早める生活、遅らせる習慣」丹野智文、恩蔵絢子著
認知症をめぐる本は世に数えきれないほど存在し、それはこの病が世の恐怖の的である証しである。でも私は思うのだ。その「恐怖」に巻き込まれることが最大のリスクじゃないのかと。だって「認知症にならないためのナントカ」という情報は、認知症になったらオシマイと思うメッセージでもあり、だがそもそも認知症にならない方法なんてない。つまりはこの種の情報は解決できぬものを解決できるふりをしているだけで、その先には安心も展望もない。我らが本当に知るべきは認知症にならない方法ではなく、認知症になった人が希望を持ち生き生き暮らせる現実的方法であろう。
そんな方法があれば苦労しない? そう思うなら本書を読んでほしい。
認知症当事者である丹野さんの視点を中心にこの病の「正体」を見破っていく対談は驚くべき内容にあふれている。意欲がなくなり、怒りっぽくなり、徘徊するといった「問題」は、実は患者の側ではなく、患者を取り巻く家族や医療者やその他世間の人、すなわち診断と同時に何もできないと思い込み本人の話も聞かぬまま「支援」しようとする人の側が作り出しているのではないか? 人は誰しもチャレンジをして失敗もしながら、少しずつ成功体験を積み重ねることで生きる意欲を持つ。なのに失敗を許さず、叱り、できることも先回りして奪ってしまえば本人はどんどん諦めてしまって表情も意欲もなくなる。それを周囲は「病気が進行した」という。でも進行ってなんなの--。
近年世間の認知症観は大きく変わり、何もわからなくなるわけじゃない、感情は残ることなどは知られている。でもそれだけじゃ全然足りないと思い知らされた。家族の前では話さない人が、当事者である丹野さんにはとてもよく話す。励まされ、笑顔を向けられ、待ってもらえれば話したいことはたくさんあり、元気になれるのだ。すなわち認知症とは、効率偏重で規格に合わぬものを排除することで成り立っている社会の病でもある。
我が89歳父も認知機能低下著しい今日この頃だが、覚えられなくなっても周りの人が覚えていればよい、人はお互いものすごく影響を与え合って生きているという対談相手の脳科学者恩蔵さんの指摘に希望を持った。人とはそもそも支え合って初めて生きていける。それを思い出し実践することができたなら、それは自分の人生も大きく変えるに違いない。 ★★★



















