「談志のはなし」立川キウイ著/新潮新書(選者:稲上えみ子)
お騒がせ男が辿り着いた「親切」の真理
「談志のはなし」立川キウイ著/新潮新書
世の中の変化がこれほど急だと、どうしても今起きている変化についていくための読書が増えるわけですが、ふと、なんかそれって違うんじゃないかと思うことがある。というのは、果たして世の変化についていくことが我らの豊かな人生につながっているのか、別の言葉で言えば、この急激に変化する世のその先は多分ディストピアという疑念が私には強くある。本当に肝心なのは変化についていくことではなく、変化の中でも決して変化しない自分の「足場」をつくることなんじゃないか。
ってことで、果たして自分にとってのその足場は何なのかを考え続けているわけだが、その甲斐あってようやく見えてきたのが「人に親切にする」ということである。ええリスキリングでも投資でもAIでもなく。ま、急にそんなこと言われても「?」な人が大半と思うが、まじめな話、自分が幸せになろうと思えば人に親切にするのは間違いのない方法だ。まずもって、人に親切にすれば笑顔が返ってくる。ってことは、絶えず人に親切にしていれば笑顔に囲まれて生きることになる。そして親切は必ず返ってくる。親切な人は人に親切にされ続けて生きることができるのだ。
──と確信を深めていた時、とある記事で、伝説の落語家立川談志が「親切だけが人を説得する」と語っていたと知り驚いた。何しろ私の浅薄な知識では談志は落語協会脱退をはじめとする「お騒がせ男」で、そこからまさかの親切というワードが! 一体なぜそこに辿り着いたのかこれはどうやっても知らねばと、その記事で紹介されていた本書を読んだのである。
いや本当に読んでよかった。談志はお騒がせ男などではなく、愛し抜いた落語を世に認めさせるために世の矢面に立ちピエロにもなり非難も受け弟子を振り回し、つまりは本気の本気で人生をかけて世の中を動かそうとした純情な人であった。その人が「親切だけが人を説得する」という結論に至ったのだから、これはもう間違いなく真実である。
著者のキウイ氏は16年半前座に据え置かれた「異能」の人で、弟子を16年半前座にしておく師匠も師匠だが、それでもついていく弟子も弟子。そのキウイが真打ちになった時の談志のコメント「よくガンバッタ、偉い ほめてやる/随分助けられた/ダメな奴でも何とかなるもんだという見本/オメデトウ」に震撼する。16年半は師匠が弟子に全力で贈った親切であった。 ★★★



















