日本の課題がわかる「リチウム戦争」アーネスト・シェイダー著/ニューズピックス(選者:佐藤優)
「都市鉱山」の重要性を見抜いていた中国
「リチウム戦争」アーネスト・シェイダー著/ニューズピックス
リチウムは電気自動車やスマートフォン、蓄電池に不可欠な資源である。脱炭素化とデジタル化が進む今日、石油、天然ガス、銅などに並ぶ戦略物資になった。本書は、リチウムをはじめとする重要鉱物をめぐり、国家、企業、地域住民、環境保護団体が繰り広げる闘いを克明に描いている。
著者のアーネスト・シェイダー氏は、重要鉱物と世界的なエネルギー転換を取材するロイター通信の上級特派員である。鉱山や企業、政府機関などへの取材を通じ、脱炭素化に不可欠な資源の採掘が、別の環境破壊や地域社会との対立を引き起こすという矛盾を浮き彫りにする。
リチウム資源は地下に存在していても、容易に利用できるとは限らない。鉱山開発には大量の水や土地が必要となり、自然環境の破壊、先住民の権利、地域住民の反対といった問題が生じる。新規採掘だけに依存せず、使用済みバッテリーから資源を回収する技術と制度を整備することが重要だ。
〈中国は、グリーンエネルギー鉱物の世界市場を支配しているのと同様、リチウムイオンバッテリーのリサイクル市場においても大きな影響力を握っている。中国の現在および計画中のリサイクル能力は米国の3倍以上だ。中国はバッテリーリサイクルの研究でも世界をリードしており、研究で後を追う日本、韓国、米国を大きく引き離している〉
中国の強さは、鉱山の権益を押さえたことだけにあるのではない。精製、電池製造、研究開発、リサイクルまでを一つの産業連関として捉え、長期的に投資してきた。将来、廃棄されるバッテリーが重要な「都市鉱山」になることを早い段階から見抜いていたのである。
資源に乏しい日本にとって、リチウムの安定確保は経済安全保障上の重大課題である。輸入先の多角化だけでなく、リサイクル技術への投資、使用済み電池の回収制度、国内での精製・再利用能力の強化が不可欠だ。中国の先見性に学び、日本もリチウムを国家戦略の中心に据える必要がある。本書は、脱炭素化の背後で始まった新たな資源戦争の現実と、日本が備えるべき課題を教えてくれる重要な作品である。 ★★★
(2026年8月18日脱稿)



















