「すすきの近くの喫茶店でバイトしていたときに経験したのことを膨らませた物語です」──「HOTEL NIGHTHAWKS」小路幸也氏
「HOTEL NIGHTHAWKS」小路幸也氏
札幌・すすきのに70年の歴史を刻む、石造りで小さな「HOTEL NIGHTHAWKS」。シングル1泊2500円で、ベーコンエッグ、スープなどがついた朝食が500円。むろんビジネス客らに人気だが、事情を抱えた人たちも泊まりにくる。
長期連泊を申し出る女子高校生、解離性同一性障害の女性、命を狙われているピアニスト。彼女たちの素性は? 心持ちは? ホテルを舞台に、さまざまな人生が浮かび上がる物語だ。
「すすきのには、高級店も怪しい風俗店も共存し、周りに普通の家もあり、銀座、新宿、鴬谷などの要素が混じった歓楽街なんです。私は学生時代に、すすきの近くの喫茶店でバイトしましたが、そのときに実際に経験したことを膨らませて書きました。主人公の大我が喫茶店でバイトしていたとき、殺人事件の犯人と瓜二つだったのも、僕に降りかかった実話がもと。僕の疑いは晴れましたが、父から『何をやっている』と電話がかかってきたほどでした。この物語の60%は真実です」
まず驚かされるのは、すすきのの来歴だ。北海道開拓使時代に役所の肝いりで娼館が建てられた地。葦が茂った地・吉原にあやかろうと、ススキ野原に付けられた地名だという。
「NIGHTHAWKS」を日本語に訳すと「夜鷹」。江戸時代の街娼の意味だ。ホテルの存在は架空だし、前身が娼館だったというのも創作だ。だが、娼館時代から3代目にあたる設定の70代のオーナーみことさんが、「自分は女の涙と屍の上に生まれてきた。先祖の罪滅ぼし(で運営している)」と漏らす言葉が生々しい。
「ウチの先祖も鳥取からの移住者ですが、北海道では3~4代遡ると、食い潰れ者か、駆け落ち者か犯罪者。アウトローが多かったんですね。だから、去る人は追わず、『どこへ行っても頑張れ』と送り出し、来た人とは、激寒の中を生きていくために助け合ったんです。そんな道産子気質をこの物語の登場人物が受け継いだかどうかは分かりませんが……。物語の始めと終わりだけ決めて書き出すのが私のやり方で、今回も書きながらストーリーを作っていきましたが、登場人物全員に、均等に思い入れがあります」
宿泊客の複雑な事情をオーナーと従業員が解決
物語では、みことさんに見込まれ大我が「HOTEL NIGHTHAWKS」に就職する。フロント業務に就いていると、タクシードライバーが雨の中でうずくまっていた女性を連れてくる。夫からのDV被害者だった。すぐさまスタッフ一丸となって、彼女の「夜逃げ」を手伝う。
ぶらりとやってきた女子高校生は3泊した後さらに13連泊を申し出る。「何か事情があるはず」とみことさん。大我が自宅住所地に行き、隣人から「お母さんが蒸発し、家賃が払えなくなった」という事情が明かされる。
他にも「居場所をなくした女性たち」が次々と登場。みことさんの指揮の下、スタッフのケアによって解決に導かれる。
「彼女たちは一つの側面からだと、『かわいそうな子』に見えるでしょうが、別の側面から見ると必ずしもそうでないと思います。母が蒸発した女子高校生は一足早く大人になれるかもしれない、DV被害はのちに強くなれるかもしれない、というふうに。僕はハッピーエンドの物語しか書きませんから、安心して読んでください」 (徳間書店 2200円)
▽小路幸也(しょうじ・ゆきや) 1961年、北海道生まれ。札幌の広告制作会社勤務を経て執筆活動に入り、メフィスト賞を受賞。主な作品に「東京バンドワゴン」「花咲小路」などのシリーズがある。



















