「闇バイトのニュースとか見ると、この背後に実は…なんて、考えてしまいますね」──「黒幕」越尾圭氏
「黒幕」越尾圭氏
昨年刊行されて反響を呼んだ社会派ミステリー「なりすまし」の著者が新作で描いたのは闇バイト。日々報じられているタイムリーなテーマと向き合うに至った「創作秘話」を、自身のウェブサイトで明かしている。版元の角川春樹事務所の社長室で、ある映像を見せられたこと。都市伝説めいたその映像をもとに小説を書かないかと、社長直々に打診されたこと。
「最初はえっ、と思いました。やります! と即答したものの、話が突拍子もなくて……。映像の中身は言えませんが、主題は闇バイトで、黒幕の正体も示されていました。でも、黒幕に行き着く過程が映像にはないんです。どう展開してラストに落とし込むか。あれこれ悩みながらプロットをつくっていきました」
主人公の上杉雄作は元全国紙の新聞記者。一人息子の健人を自然の中で育てようと5年前に東京の新聞社を辞め、妻とも別れて、故郷の尾道に戻った。地元でフリーライターをしながら父子2人、平穏に暮らしていた。ところが、まだ10歳の健人が海で亡くなってしまう。地元警察は事故死と断定するが上杉は納得できない。一人で事故の真相を探り始めた上杉は、健人の死と中国地方で起きている闇バイト事件のつながりを見つけだす。息子を奪われた怒りと眠っていた新聞記者魂に火が付いて、上杉は危険ゾーンに踏み込んでいく。
舞台は尾道から東京へ、香港へ、そしてミャンマーへ。上杉は闇バイトの本拠地を探って異国の街を動き回る。街の描写や移動の距離感が、実際に行ったように詳細でリアル。
「現地取材はしてないです。飛行機が苦手なんですよ(笑)。旅行記などの資料、ストリートビューや航空写真などを参考にして書きました」
それにしても意外過ぎる黒幕
瀬戸内海の港町からミャンマーの奥地まで、上杉とタッグを組んで行動するのは、潜入取材を得意とするフリーライターの陣内恵吾。
「上杉は相手に顔が割れていて潜入取材が難しいので、陣内を登場させました。犯罪グループに潜入すれば、メンバーの一員として犯罪に加担することになります。でも陣内は『大きな正義のためなら小さな悪は許される』と考えていて、正義感から暴走したり豹変したりする。書いていて面白い人物でした」
他にも一癖ある脇役が登場する。上杉・陣内側に寝返った闇バイトグループのメンバー。2人の取材を強力に後押しする週刊誌の凄腕女性編集長。上杉の周りに見え隠れする警察庁の特殊部隊アンノウン。敵か味方か。本当に信じていいのか。物語の終盤、人間不信に陥りそうなどんでん返しがいくつも仕掛けられていて、読者はハッとしたりギョッとしたり。犯罪組織は恐ろしい。
「闇バイトという語感の軽さが犯罪を助長していると思います。最悪の場合、殺人までいってしまう犯罪なのに。バイト感覚で安易に近づくと取り返しのつかないことになるよ、と伝えたいですね」
それにしても意外過ぎる黒幕。まさか! と思いつつも、世界の今が少し違って見えてくる。著者自身はどうなのだろう。
「闇バイトのニュースとか見ると、この背後に実は……なんて、考えてしまいますね(笑)」
黒幕が気になるなら、ぜひ一読を。 (角川春樹事務所 2310円)
▽越尾圭(こしお・けい) 1973年、愛知県生まれ。同志社大学中退、早稲田大学教育学部卒業。家庭用ゲームソフト制作会社、編集プロダクションを経て、大手インターネットサービス会社に勤務。2019年、「このミステリーがすごい!」大賞・隠し玉として、「クサリヘビ殺人事件-蛇のしっぽがつかめない」でデビュー。主な著書に「楽園の殺人」「協力者ルーシー」「誰がためにその手は」「なりすまし」などがある。



















