孤独死などの現場の特殊清掃と遺品整理を担う「特殊遺品整理課」が舞台の物語です──「海月の骨」朝宮夕氏
「海月の骨」朝宮夕著
「人間も、死んだら溶けるんだなぁ」
そんなショッキングなセリフから、本作は幕を開ける。バツイチの50代男性が孤独死した薄暗い1Kの部屋で主人公の水生悠浬と先輩の鳴海が、遺体が溶けてできた“黒い水たまり”を片付けている。彼らは、「特殊遺品整理課」のスタッフだ。
「デビュー作となった前作を刊行した時点で、すでに本作のプロットはできていました。第2作をというお話をいただいて、私自身も遺品整理という仕事の経験があり、いつか特殊遺品整理課の物語を描きたいという思いがあったので、形にすることができました」
前作では、損傷の激しい遺体を復元する納棺師たちを描いた。本作は、同じ会社で孤独死などの現場の特殊清掃と遺品整理を担う別部署が舞台となっている。いずれも人間の「死」に深く関わる仕事だが、関わり方は大きく異なる。遺品整理士が向き合うのは残された家や物。しかし、直接遺体と接することはないにもかかわらず、その人の「生」を強烈に突き付けられる。
「私がどの現場でも感じたのが、生活のアンバランスさでした。例えば、カップ麺の空き容器やたばこの吸い殻が山のように残されている部屋に、同じくらい大量の乳酸菌飲料がある。お酒の空き瓶の隣に、ビタミンなどのサプリメントの容器も転がっている。自分を痛めつけたかったのか、それとも生きたかったのかと、考えさせられることが多かったんです」
強烈な「死」の現場から「生」の意味を問う
強烈な「死」の現場が描かれつつ、生きることの意味を考えさせられる本作。その鍵を握るのが、主人公の水生だ。彼は母親からネグレクトを受ける中で生き抜き、今は2人の弟の面倒を見るヤングケアラー。アパートの大家である“おばあちゃん”とのつながりの中で、孤独死の現場に残された物たちが“ゴミ”となっていく不条理に苦しみながらも、少しずつ変わっていく。
「遺品整理の現場では、ご遺族から“何もいらないから捨ててくれ”と言われることがありました。一方で、血縁関係がないご友人などが心を寄せてくれることもありました。家族と暮らしているから、身内がいるから孤独死とは無縁ということはなく、生前にどれだけ人と関わって生きてきたかが大切なのだと思わされましたね」
本作には、水生たちが対峙する多数の孤独死が描かれている。天井近くまで紙が積み上げられた3DKの平屋で餓死し、2週間後に発見された60代男性。きれいに整えられた部屋の浴室で突然死し、1週間後に発見された60代の女性。妻と20代の子供たちと暮らしていた50代男性は、2階の自室で死亡し、3日間発見されなかった。フィクションではあるが、著者が見てきた現代日本のリアルな一面でもある。
「今後はいろいろなジャンルに挑戦したいとは思っていますが、やはり死をテーマにした物語を描くことで、生きることを考えるきっかけになるような作品を残したい。私は今も葬儀関係の会社で事務の仕事を続けています。人との関わりの中で感じたことを、執筆の糧にしていきたいですね」
誰にも平等に訪れる「死」と、孤独に寄り添うことの大切さを教えてくれる良作だ。 (講談社 2200円)
▽朝宮夕(あさみや・ゆう) 1991年、神奈川県出身。2025年、初執筆・初応募の小説「アフターブルー」(応募時タイトル「薄明のさきに」)で、第19回小説現代長編新人賞を受賞し作家デビューを果たす。



















