人間はなぜ突然、ひらめくのか? 三木大雲和尚が読み解く宮沢賢治の世界観…仏教の「虚空蔵」とAIは何が違う
理解できなかった「銀河鉄道の夜」をお経を学んだ後に読んだら…
では、どうすれば虚空蔵からの情報を受け取りやすくなるのか。三木和尚は「バランスを整えること」だと話す。
「仏教は一見、『善いことをしなさい』という道徳のように見えます。でも、『善いこと』ができると、反対に『悪いこと』もできてしまうんです。たとえば私は道路のゴミを拾いますが、『ゴミ拾いをしている』と思っていると、捨てた人に腹が立つ。でも、ほぼ無意識に拾うようになると、苦しみがなくなるんです。この世は思想的にも凸凹なんです。正義があれば悪ができるし、新しい思想ができれば、それまでの思想が悪になることもある。お経には、神仏の世界は平らで凸凹がないと書かれているんです」
つまり三木和尚のいう「フラット」とは、善悪や好き嫌いといった自分の価値判断にとらわれず、入ってくる情報をそのまま受け止められる状態を指すようだ。そうした価値観や先入観を取り払うことで、以前は理解できなかったものが違って見えることもあるという。
たとえば、宮沢賢治の作品だ。
「『銀河鉄道の夜』は、昔は全然わからなかったんですよ。『なんで、これが最高傑作?』って思ってました(笑)。でも、お経を学んだいま読み返したら、希望を感じて涙なくして読めませんでした」
宮沢賢治の作品には、自然や動植物、宇宙、宗教など膨大な知識と情報が込められている。三木和尚は、宮沢賢治も虚空蔵につながるような体験をし、そこで得たものを物語として表現したのではないかと考えている。
「全部説明しようとしたら辞書みたいになります。だから宮沢賢治は物語にしたんだなって思います。要するに、“間”を説明してないんですよ。わかる人にはわかる。宮沢賢治にもし会えるなら、虚空蔵について語り合いたいですね」
いまやAIが急速に広がり、調べものから仕事、日々の選択まで頼る人も増えている。膨大な情報から必要なものを受け取るという点では、三木和尚が「クラウド」にたとえた虚空蔵とAIは似ているようにも思える。では、両者は何が違うのだろうか。
「食事は、お寿司にするか、スパゲティにするか、うどんにするかまでAIに聞く人がいますよね。“今日、外食していい?”って、誰に聞いてるんだと思いますけど(笑)。でもAIに絶対にできないことがあります。責任を負うことです。AIは答えを出してくれても、その結果の責任までは取ってくれない。最後の決断権は人間が持たなくちゃいけないと思うんです。AIに頼りすぎると、人間は自信をなくしていく。でも人間は、自ら光を放つことができる。その自信を得ていただけたらと思っています」
三木和尚が「虚空蔵」を通して伝えたいのは、最後に決断する人間自身の力なのかもしれない。
(取材・文=浦上優/ライター)
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