孤独のキネマ
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【愚か者の身分】戸籍売買の闇社会に生きる男たちが落ちた血まみれの地獄
藤沢周平の短編小説「恐喝」に、江戸時代のチンピラ主人公が従妹から「あんなのと早く手を切らないといけないよ。そうでないとおまえ、いまにひどい目に会うよ」と説教される場面がある。「あんなの」とは主人公に…
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「おーい、応為」葛飾北斎とお栄、天才父娘が織りなす画業の相克
タイトルの「おーい、応為」は葛飾北斎が娘のお栄に「おーい、筆!」「おーい、飯!」と命じていたことにちなむ。本作はそのお栄の半生を描きながら、巨星・葛飾北斎の反骨ぶりを活写している。 北斎(永…
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「見はらし世代」妻の死による家族の崩壊。子供たちはなぜ父親を憎むのか?
この作品を見て「家族とは実に難しいものだ」と思った。お叱りを受けるかもしれないが、仕事に燃える男にとって、家族を抱えるのは厄介な作業でもある。 物語は普通の家族が別荘で休暇を過ごす場面から始…
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「シークレット・メロディ」若かりし日の恋の疼きが蘇るファンタジー
老若男女、人はみな胸がときめくロマンチックな出会いを求めている。特に10代の無垢な精神に包括された時期はそうした願望が強い。韓国映画「シークレット・メロディ」は見ている者が若かりし自分を思い浮かべ、…
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「ブラックドッグ」繁栄に取り残された中国の町で生きる前科者と野犬の絆
第77回カンヌ国際映画祭で「ある視点部門グランプリ」と、優れた演技を見せた犬に与えられる「パルムドッグ賞」をダブル受賞した。中国の寂れゆく街を舞台に、青年や大人、無数の野犬たちの生きざまを描く群像劇…
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「SENSEKI」逼塞の蘭学者が失明を乗り越えて挑む国防のライフワーク
この映画を見て「人間、年を取っても活躍の場はあるものだな」と感じ入った。というより、老境とは長年の経験や知識をさらに伸長させる実りの時期なのだと感心させられたのだ。 主人公は幕末、下総国古河…
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「タンゴの後で」あの衝撃作でトラウマを抱えた女優マリア・シュナイダーの絶望を描く
「ラストタンゴ・イン・パリ」――。60歳以上の人ならこのタイトルを聞いて顔に意味深な笑いを浮かべるかもしれない。 1972年にイタリアのベルナルド・ベルトルッチ監督が世に放ち、世界中でセンセー…
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「愛はステロイド」田舎町の暴力に同性愛カップルの愛憎が絡むドロドロの犯罪劇
見終わったとき、「低予算でもここまで完成度の高い作品を作れるのか」と思った。田舎町を舞台にした有象無象の人間関係をダークな色調で描いている。英国出身の女流監督ローズ・グラスがメガホンを取った。世界各…
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「大統領暗殺裁判 16日間の真実」軍法裁判と全斗煥の野望を暴いた衝撃作
この映画を見終えたとき「重いなぁ」とつぶやいてしまった。韓国の朴正熙暗殺事件を裁く軍法裁判を重厚に描いた衝撃作。民主主義を失った暗黒社会とはこれほどまでに恐ろしいのかと戦慄を覚えた。 197…
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敵地で孤立した新米兵士の血みどろバトル…「ランド・オブ・バッド」で猛暑をぶっ飛ばせ!
今さら言うのもなんだけど、世の中は暑い。熱中症で倒れそうだ。こんな日は戦争映画でスカッとしたいと思い、この「ランド・オブ・バッド」を見学した。ベテランのラッセル・クロウと若手のリアム・ヘムズワースの…
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「入国審査」移住希望の若いカップルを襲った“合法の拷問劇”
いやはや、すごい新人監督がいるものだ。トランプ大統領が移民や留学生をぐいぐい締めつけている米国。この国の市民になるにはかくも困難が待ち受けているのか。スペイン映画「入国審査」を見て唸ってしまった。 …
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「木の上の軍隊」敗戦後も山中に潜伏した兵士に日本人の愚かさを見る
今年5月、自民党の西田昌司がひめゆりの塔の展示について「歴史の書き換え」と発言し物議をかもした。当の西田は言葉を撤回することもなく、シレッとした顔で7月の参院選で再選された。こうしたことから大戦末期…
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「盲山」中国政府が上映中止に追い込んだ農村人身売買の戦慄
「盲山」と書いて「マンシャン」と読むらしい。中国映画だ。2007年の公開当時、中国政府によって20数カ所をカットされたうえに上映が禁止されたという。どんな作品なのかと思って見てみたら驚愕の内容。拉致に…
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「BAD GENIUS/バッド・ジーニアス」貧しい移民少女が白人富裕層を巻き込む痛快カンニング劇
2018年、タイ映画「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」(2017年作)が日本で大ヒットした。本作はこの作品をハリウッドでリメークしたもの。高校生がテストでカンニングする物語だ。この米国版を見ると…
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「『桐島です』」が突きつける企業連続爆破犯人の「歴史の空白」
今年は桐島聡の当たり年――。こんな風に書いたら映画人に叱られるだろうか。 3月に古舘寛治主演の「逃走」(足立正生監督)が公開され、まもなくこの「『桐島です』」(高橋伴明監督)が封切られる。い…
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NYの救急救命隊を描く「アスファルト・シティ」人間を性悪説で喝破した救いようのない物語
救急救命の映画といえば、日本では2023年公開の「劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室」がある。鈴木亮平演じる熱血感が災害の現場に乗り込み、命がけで人々を救う物語。英雄を讃えるストーリーがいかに…
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38度線突破の北朝鮮兵士を描く「脱走」。襲ってくる困難の衝撃
映画の惹句に「ノンストップ」という文言が使われることがある。「ノンストップ・ポリティカル・アクション」とか「ノンストップ・トレジャー・アドベンチャー」などだ。次から次へと見せ場が訪れるという意味であ…
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「ラ・コシーナ/厨房」は大型レストランを舞台にした米国分断の縮図だ
大型レストランの厨房を白黒画面で描いた作品と聞き、どんな内容なのか興味津々で見に行った。米国とメキシコの合作である。 多くの移民がビザ取得のために厨房で働くニューヨークの大型レストラン「ザ・…
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長澤まさみ主演「ドールハウス」 古びた人形が仕掛ける恐怖の心理戦
夏がきた。怖い映画を見たくなる季節。「長澤まさみの『ドールハウス』は面白いよ」と映画仲間から教えられた。新感覚のドールミステリーという。さっそく試写を見た。 5歳の娘・芽衣を事故で亡くした佳…
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映画「ぶぶ漬けどうどす」に見る京都人の二面性 本当は恐ろしい老舗の女将さんたち
「京都の人とつき合うのは簡単そうで難しい」 10年前に東京から京都に移り住んだ友人はいつもこう話してくれる。 生粋の京都人に自己紹介するときは、自分がどこの出身かをまず話す。次に先祖や…
