孤独のキネマ
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「ラ・コシーナ/厨房」は大型レストランを舞台にした米国分断の縮図だ
大型レストランの厨房を白黒画面で描いた作品と聞き、どんな内容なのか興味津々で見に行った。米国とメキシコの合作である。 多くの移民がビザ取得のために厨房で働くニューヨークの大型レストラン「ザ・…
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長澤まさみ主演「ドールハウス」 古びた人形が仕掛ける恐怖の心理戦
夏がきた。怖い映画を見たくなる季節。「長澤まさみの『ドールハウス』は面白いよ」と映画仲間から教えられた。新感覚のドールミステリーという。さっそく試写を見た。 5歳の娘・芽衣を事故で亡くした佳…
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映画「ぶぶ漬けどうどす」に見る京都人の二面性 本当は恐ろしい老舗の女将さんたち
「京都の人とつき合うのは簡単そうで難しい」 10年前に東京から京都に移り住んだ友人はいつもこう話してくれる。 生粋の京都人に自己紹介するときは、自分がどこの出身かをまず話す。次に先祖や…
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「マリリン・モンロー 私の愛しかた」酒とセックスとマフィアに翻弄されたセックスシンボルの謎の死
「彼女のキャリアをスタートさせたのはマフィアであり、彼女を終わらせたのもマフィアだった」 名優トニー・カーチスはマリリン・モンロー(本名:ノーマ・ジーン・モーテンソン)をこう評したという。本作…
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売り飛ばされた姉と姉を慕う弟…「娼生」は1970年代台湾の娼婦残酷物語だ
最近「セックスワーカー」という言葉をよく耳にする。性風俗の仕事をしている人々のことで、放送中のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は吉原の遊女が重要な役割を果たしている。 映画の世…
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若返りを求める女優が細胞分裂…「サブスタンス」の阿鼻叫喚を直視せよ!
男女を問わず、人は50歳を過ぎたころから「今の若さを維持したい」とか「若返りたい」と願うものだ。実は筆者も同じ。友人の「顔のシワがなくなるよ」との言葉を信じて1カ月前からビタミン剤を飲んでいる。 …
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世界の映画祭で13冠を獲得。『事実無根』は父と娘の絆をめぐる謎解きドラマ
思い込みかもしれないが、漢字4文字のタイトルを冠した映画にはどこか堅物なイメージが漂っている。「推定無罪」「関心領域」「真空地帯」など。いま話題の「日本沈没」も4文字だ。4文字タイトルはやや高尚で難…
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『わたのまち、応答セヨ』100分の1まで衰退した三河木綿の復活プロジェクトは「逆境」と「奇跡」の物語だった
地方都市のさびれゆく産業文化にスポットを当てたドキュメンタリー……こう聞くと「どうせ安作りのPRビデオでしょ」と片付けてしまうものだ。実は筆者もそうだった。この「わたのまち、応答セヨ」は愛知県蒲郡市…
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『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』排他主義とセクハラが横行するボリショイ・バレエの陰湿な裏舞台
本作はクラシックバレエの世界を舞台にした一種のスポコンドラマ。だが野球やサッカーと違い、見ていると次第に気分が滅入ってしまう。バレエの特訓よりも、主人公が直面した苦難をストレートに描いているからだ。…
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『花まんま』結婚を目前に控えた兄妹。妹は死者と交流する不思議な秘密を抱えていた
最初は「なんだか退屈なドラマだな」と思わせながら、徐々に展開がミステリアスになり物語のスケールが広がっていく。そんな映画をたまに見かける。この「花まんま」もそうした一本だ。下町人情話風の月並みなセリ…
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『太陽(ティダ)の運命』オスプレイ、教科書問題、辺野古基地 大田昌秀を追い落とした保守政治家・翁長雄志の「原点回帰」
ドキュメンタリー映画とは重宝なものだ。わずか1、2時間で社会的な事件や歴史を学ぶことができるのだから。この「太陽の運命」もしかり。上映時間129分で沖縄の現代史をしっかり復習できる。「太陽」は「ティ…
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『プロフェッショナル』お約束の“引退する殺し屋”が革命組織IRAの鉄の女とドンパチ
リーアム・ニーソンはすごい。あの年で殺し屋としてしっかり戦っている。だから彼の新作をつい見てしまうのだ。 本作の舞台は1974年の北アイルランド。血塗られた過去を捨て去りたいと願う殺し屋フィ…
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『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』独裁者に心酔し国民を戦争と虐殺に駆り立てた男の末路
共和党支持者は「トランプはディープステートと戦っている」と主張し、立花孝志は「黒幕は竹内元県議だ」と声を張り上げた。彼らの言説を信じた有権者によって、トランプと斎藤元彦は再選された。「真実とは何か?…
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『1980 僕たちの光州事件』幸せな家族の視点から非常戒厳の残虐性を追求。軍隊はなぜ市民を殺したのか?
昨年12月、韓国の尹錫悦大統領が非常戒厳を宣布し、国内を大混乱に陥れた。このとき日本のマスコミは「45年ぶりの非常戒厳」と報じた。前回の非常戒厳令は朴正煕大統領が暗殺された1979年10月26日の翌…
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『陽が落ちる』切腹を命じられた武士の最期に封建社会の不条理を味わう
昨年の時代劇映画の話題作といえば、幕末の侍が現代の撮影所に迷い込む「侍タイムスリッパー」。よくできたコメディーとして評判を呼びヒットとなったが、今年の時代劇ではこの「陽が落ちる」が話題をさらうかもし…
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『アンジーのBARで逢いましょう』御年91歳、草笛光子演じる謎の老女がもたらした「幸福の余韻」
この数年の草笛光子の快進撃は目を見張るものがある。2021年に「老後の資金がありません!」に脇役出演して気丈ながら少しドジな老女を好演。その存在感が認められ、昨年の「九十歳。何がめでたい」では長い女…
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ニコール・キッドマン『ベイビーガール』 客席を圧倒するM女の喘ぎ声
筆者は男だから、女性の心理はよく分からない。これまでの人生で「女は不可解なもの」「女とは何ぞや?」と首を捻ってきた。 そうした疑問になにがしかの答えを与えてくれたのがこの「ベイビーガール」だ…
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「光る川」高度経済成長期の1958年、少年は病母のために川をさかのぼり、大昔の悲恋に遭遇する
「現代人が忘れた自然への畏怖」――。山岳を舞台にしたドラマやドキュメンタリーを語るときに使われる月並みな言葉だが、この「光る川」を見ると、いつしか自然への畏敬の念を抱いてしまう。 時代は195…
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コンクラーベの裏側を暴いた『教皇選挙』 作品のメッセージをどう解釈するかでその人の知性が分かる
「コンクラーベ」とはバチカン市国の元首にしてカトリック教会の最高指導者であるローマ教皇を選ぶ選挙のこと。キリスト教徒が比較的少ない日本でも「コンクラーベで教皇が決まった」というニュースを耳にする。「根…
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『逃走』が描く逃亡犯・桐島聡 血まみれ爆破事件の「悔悟」と「逃げる理由」
団塊世代にとっては気になる映画だろう。昨年1月、新左翼過激派集団「東アジア反日武装戦線」のメンバーで、長らく逃亡中だった桐島聡が死亡した(享年70)。神奈川県鎌倉市の病院に末期がんの患者として入院し…