「おーい、応為」葛飾北斎とお栄、天才父娘が織りなす画業の相克
10月17日(金)全国公開中
タイトルの「おーい、応為」は葛飾北斎が娘のお栄に「おーい、筆!」「おーい、飯!」と命じていたことにちなむ。本作はそのお栄の半生を描きながら、巨星・葛飾北斎の反骨ぶりを活写している。
北斎(永瀬正敏)の娘お栄(長澤まさみ)はある絵師のもとに嫁ぐが、かっこうばかりの夫の絵を見下したことで離縁となり、父のもとに出戻ってくる。2人は父娘にして師弟だ。
描きかけの絵が散乱したボロボロの長屋で始まった二人暮らし。やがて父親譲りの才能を発揮していくお栄は、北斎から「葛飾応為」という筆名を授かり、一人の浮世絵師として時代を駆け抜けていく。
美人画で名を馳せる絵師であり、お栄の良き理解者でもある善次郎(髙橋海人)との友情や、兄弟子の初五郎(大谷亮平)への淡い恋心、そして愛犬のさくらとの日常。
嫁ぎ先を飛び出してから二十余年。北斎とお栄の父娘は、長屋の火事と押し寄せる飢饉をきっかけに、北斎が描き続ける境地の富士へと向かうのだった……。
葛飾北斎が登場する映画といえば昨年のヒット作「八犬伝」(曽利文彦監督)が記憶に新しい。その4年前には柳楽優弥主演の「HOKUSAI」(橋本一監督)が公開された。古くは樋口可南子の大胆ヌードが話題になった「北斎漫画」(1981年、新藤兼人監督)がある。葛飾北斎は映画人にとって格好の題材なのだろう。
なぜ北斎は面白いのか。素人考えで言えば、やはり西洋美術にも影響を及ぼした高度な画力だろう。次に90歳までひたすら描き続けたその執念。当時の90歳は無類の長寿だったが、それでも北斎は「あと10年、5年の命があれば本当の絵師になれたのに」とさらなる長寿を求めた。単に生き長らえたかったのではなく、作画に新たな方向性を見出し、さらなる追究を望んだのだ。
本作にも登場するが、大名からの作画の依頼をきっぱりと断る痛快さも北斎の魅力なのかもしれない。とにかく絵になる絵師なのだ。