「『桐島です』」が突きつける企業連続爆破犯人の「歴史の空白」
7月4日 新宿武蔵野館ほかで公開
今年は桐島聡の当たり年――。こんな風に書いたら映画人に叱られるだろうか。
3月に古舘寛治主演の「逃走」(足立正生監督)が公開され、まもなくこの「『桐島です』」(高橋伴明監督)が封切られる。いずれも桐島聡の犯行と逃亡がテーマ。映画人にとって桐島の何が魅力的なのかと自問してしまう。
桐島聡は1970年代の連続企業爆破事件に関与して全国指名手配を受けた。昨年1月、神奈川県鎌倉市の病院に入院中、自分は桐島聡であると名乗り、わずか4日後に死亡。本作はその逃亡の足跡をたどっている。
1970年代、高度経済成長の裏で社会不安が渦巻く日本。明治学院大学の学生・桐島聡(毎熊克哉)は東アジア反日武装戦線「狼」の活動に共鳴し、その別動組織「さそり」のメンバーとしてテロ活動に参加する。
だが1974年、一連の連続企業爆破事件で犠牲者を出したことで深い葛藤に苛まれる。組織は警察当局の捜査によって壊滅状態になり、桐島は指名手配される。
彼は「内田洋」の偽名を使って逃走。やがて藤沢市内の工務店で住み込みの職を得る。
ようやく手にした静かな生活の中、ライブハウスで知り合った歌手キーナ(北香那)の歌「時代おくれ」に心を動かされ、相思相愛となるのだが……。
逃亡50年。桐島には追われる者としてのドラマがあった。指名手配犯と悟られないよう細心の注意を払いつつ、工務店には真面目に勤める。一方、月に一度ライブハウスに通って音楽を楽しみ、出演しているキーナと交流する。まさに2つの顔を使い分けて生きていたわけだ。
高橋伴明監督はあるインタビューでこう語っている。
「彼(桐島)には、革命家としての一面とは別に、ごく普通の青年としての側面もあったはずです。だからこそ、青春や恋愛の部分を描くことで、『逃亡者』ではなく『一人の人間』としての桐島聡を表現したかった」