「入国審査」移住希望の若いカップルを襲った“合法の拷問劇”
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか国公開中
いやはや、すごい新人監督がいるものだ。トランプ大統領が移民や留学生をぐいぐい締めつけている米国。この国の市民になるにはかくも困難が待ち受けているのか。スペイン映画「入国審査」を見て唸ってしまった。
米国移住のためにバルセロナからニューヨークの空港に降り立ったディエゴ(アルベルト・アンマン)とエレナ(ブルーナ・クッシ)は新天地での生活に胸を膨らませていた。だが書類への記入を済ませ、パスポートを見せると長い確認の後、待合室に連れて行かれる。
ディエゴは米国に住む兄に連絡しようとするが、職員に「携帯は禁止」と止められる。水も飲めず食べ物もなく、苛立つエレナを「彼らを怒らせるのはマズい」となだめるディエゴ。ようやく職員から声をかけられ、「こちらへ」と暗く狭い部屋に連れて行かれる。問答無用でスーツケースを調べられ、エレナは糖尿病用のインスリン注射を没収される。さらに警察犬が現れ、犯罪者のような手荒な身体検査まで受けるのだ
だが、これは審査の始まりに過ぎなかった。女性審査官(ローラ・ゴメス)が現れて必要書類を細かく確認。「これは尋問よ」と宣告する。一方的な質問で2人の細かな経歴を次々と明らかにしていく審査官。米国のどこでどんな仕事をするのかと詳細な尋問が続く。さらに新たな男性審査官(ベン・テンプル)が登場。かくして悪夢のような尋問の第2幕が始まるのだった……。
本作を手がけたアレハンドロ・ロハスとフアン・セバスチャン・バスケスの両監督はともにベネズエラ出身。こう語っている。
「目的地に入国できたわけでもなく、入国を拒否されたわけでもない、宙に浮いたような状況。他人の恣意的な判断が人生を一変させてしまうような、ある意味極限の状況を描いた」
ロハスとバスケスにとってこの作品は、初の長編監督作品(脚本も担当)。何度も言うが、並の技量ではない。さらに言えばディエゴとエレナ、審査官役の役者4人がそろって芸達者だ。筆者は追いつめられて一筋の涙を流すブルーナ・クッシの演技に魅了された。