間接表現で描くキューブリック伝記映画

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「キューブリックに愛された男」「キューブリックに観せられた男」

 亡くなった人物の生涯を描く手法に「本人自身より周囲の人間との関わりを描く」というのがある。いわば間接表現の伝記だが、いま、この映画版の面白いドキュメンタリーが同時公開されている。「キューブリックに愛された男」「キューブリックに魅せられた男」の2作である。

 スタンリー・キューブリックは今年没後20周年の名監督。製作にあたっては細部まで大変な凝りようで、スタッフ泣かせでも有名だった。

 2作が面白いのは、別に示し合わせたわけでもないのに、故人と正反対の関わり方をした2人をそれぞれ描いているからだ。

「愛された男」は偶然ドライバーをつとめて気に入られ、生涯にわたって送り迎えから飼い犬の世話まで、あらゆる雑用でサポートしたイタリア人のエミリオ。夜中も週末も呼び出され、奥さんに愚痴をこぼされっ放しだったが、それでもウマのあった男同士、キューブリックが心底頼りにしていたことがわかる。

 他方、「魅せられた男」は尽くしに尽くしたあげく、ほとんど一生を棒に振ったレオンの話。もとは出演俳優だが、その後は助監督まがいに寄り添い、あらゆるむちゃ振りに耐えるさまはさながらDV男に尽くす女。実は筆者はその昔、「フルメタル・ジャケット」の日本公開で字幕監修を頼まれたのだが、ネットのない時代に国際電話で長々と話してくたびれ果てたことを思い出した。

 面白いのは、2作を見るとキューブリックという矛盾だらけの個性がかえって身近に感じられること。その意味で間接表現で描かれたキューブリックは、セルバンテスの「ドン・キホーテ」(岩波書店 全6巻 5770円)が従者サンチョの目からキホーテを描くのにも似ているのだ。なお全6巻は長すぎるなら、同じ訳者が手がけた岩波少年文庫版という手もある。

<生井英考>

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