渋さと垣間見える緩さが紛れもなくパトレイバー│「『機動警察パトレイバー』寿司屋の後藤」伊藤和典著
「『機動警察パトレイバー』寿司屋の後藤」伊藤和典著
機動警察パトレイバーという作品を知っているだろうか。ロボット技術を応用した歩行式の作業機械「レイバー」が活躍する世界。そのレイバーを使った犯罪に対処するため警視庁で設立されたレイバー部隊「特車二課」の面々の物語だ。本作品は1988年に、オリジナルビデオアニメとして発表された後、少年サンデーでマンガ化、映画にもなり、テレビアニメも放映され、2014年には押井守監督で実写映画化、そして今年、新作のアニメ映画「パトレイバーEZY」シリーズが公開されている。
初出から38年経っても根強いファンや新規のファンも獲得している。日本アニメ史の中でも重要な位置にある作品だ。本作は、作中、ひょうひょうとしつつ、大事な場面では切れ味が鋭い特車二課の隊長、後藤喜一が警察組織を抜け、世界各国を転々とした後、70歳にして熱海に構えた寿司屋が舞台の掌編集である。著者はアニメ版の脚本を担当していた伊藤和典さん。
パトレイバーをよく知らない人からすると「え? 寿司屋?ロボットアニメじゃないの?」と思うかもしれない。もちろんそういったSF的な側面や警察物としても面白いのだが、私はこの作品の核は「人間味」だと思っている。そこで最も奥行きが深く、人間味のある後藤隊長が出てくれば、その時点でパトレイバーなのである。たとえロボットがほぼ出てこなくても。
寿司屋で常連同士の揉め事をやんわりいさめたり、雨の日に子猫を拾ったり、熱海駅近くの謎の地下通路の都市伝説を耳にしたり。この渋さと垣間見える緩さが紛れもなくパトレイバーだなと感じる。また、特車二課のメンバーが次々寿司屋を訪ねてくる。レイバーを扱っていた彼らも30年後どういう人生を歩んでいたかを知れたのがファンとしてうれしい。
扉絵はキャラデザインを担当しマンガ版を執筆していたゆうきまさみさん。表紙のとてもよく枯れている後藤さんの座り姿が味わい深い。発売されてすぐにオリコンランキング小説部門1位だったのも今も愛されている作品の証明になった。
今も追い続けてる人はもちろん、昔見ていたなんて人も本作を手に取ってほしい。ページを開けば後藤隊長が寿司屋のカウンターで迎えてくれるだろう。
(文藝春秋 1980円)



















