「ハッピー山」松田いりの著 ハイテンションな主人公の頭に「山」が出現⁉
「ハッピー山」松田いりの著
書店でいつもお世話になってる先輩がいる。私よりも読書量が多く、好きなジャンルも幅広い。いろんな作品を薦めてくれるのだが、今回はそんな先輩が最近私に猛プッシュしてきた小説を紹介したい。
役者を夢見る主人公の女子大生、彼女は大学でカースト上位、しかも芸能界にもコネがある女友達に誘われ、キャンプに行くことになる。常に脳内がハイテンションな主人公、キャンプのメンバーはこれまたイケてる男女ばかりで、これは私が大活躍して人間としての地位をガン上げするぞと思うのだが、壮絶な空回りを何度もやらかすことになる。鋼の自己肯定感で取り戻そうとするが、神がかり的に悪い方向に突き進み彼女の頭に山が出現する。山には小人も住んでいてうっとうしい、そこから更にとんでもない事態になり……とここまであらすじを書いてみたが「頭に山が出現」より、とんでもない展開しちゃうのかよ! と改めてこの小説の異常性に震え上がってる。私にこの小説を薦めた先輩が別の書店員にもあらすじを口頭で説明してたが終始「は? どういうこと?」みたいな顔をしていた。気持ちは分かる、がとにかくまずは読んでほしい。読んだらこの不条理が分かるってわけじゃないのだが面白いことは確かなのだ。
この物語は書き方一つで、ホラーになりそうなのに、全くもってその色合いがない。それはこの主人公が終始ポジティブで、自身が悪いことをしても、いや私じゃなくて周りが悪い! 私は超絶最高っ、と脳内でノリノリだからである。
ここまでではないが、このノリの人間とは会ったこともあるし、私自身も芸人なのでデビューしたての無鉄砲な時期はこんな感じだったかもしれない。つまり今で言うところの「痛いやつ」だ。
だから読んでいて主人公に対して共感性羞恥を感じ「あいたたたー……」とも思うし、シンプルに身体的描写で痛そうなシーンもある。だが、その「痛さ」があるところから突き抜けて、そのパワーに笑うしかない。そんな小説だった。痛快とはこの話にこそ送られる言葉だ。そして目まぐるしく動く人間の内情の描き方、純文学といって全く差し支えない。
このハイテンションワールドにあなたものみ込まれてほしい。 (河出書房新社 1815円)



















