収録第1話「鳥越さんは立派な被害者」にしびれた!「夜の喜劇 東川篤哉短編集」東川篤哉著
「夜の喜劇 東川篤哉短編集」東川篤哉著
芸人をやりながら書店でも働き、ミステリー小説も書いている。大分特殊な働き方をしてるなと自分で思う。作家さんとお話しする機会があると決まって皆さん「いやぁ舞台で人を笑わせるってすごいですよ」と褒めてくださる。芸人仲間でも「ミステリー小説って話だけじゃなくてトリックも考えるんでしょ? よく出来るね」と言ってくれる人も少数いる。だが両者ともに返す言葉は同じで「いやでも結果まだ全然売れてないし……」そうなのだ。上には上がいまくる。更に言ってしまうと【文章でしっかり笑わせるミステリー作家】の方々にはもう何もかも勝てない。その代表格が東川篤哉さんだ。
「謎解きはディナーのあとで」はコメディーミステリーの傑作。名前を聞いたことがある人も多いだろう。私も小説はもちろん、ドラマ版もアニメ版もしっかり見てるファンだ。ほかにもたくさんの名作を世に出してる東川さん、デビュー30年で出したこの短編集も謎と笑いの切れ味が全く衰えていない。
個人的に特にしびれたのが一番初めに収録されてる「鳥越さんは立派な被害者」。遊び人の男、鳥越が付き合ってる社長令嬢の智花の家で三股の浮気がバレ、揉めに揉めた末に勢いで刃物で彼女を刺してしまい、その後彼女から鈍器で殴られて気絶してしまう。女性の声で目を覚ます鳥越。彼を起こしたのは智花の同居人で後輩の倉橋、智花は事切れてしまっていた。このままだと殺人犯として捕まってしまう。そこで鳥越は急に入ってきた強盗に2人とも襲われたと倉橋に説明するのだが……。
この話、犯人視点から語られる倒叙ミステリーなのだが、非常に良く出来ている。犯人側の焦り、急ごしらえで考えた嘘で救われるかもという希望、でっちあげた話の綻びから追及される絶望まで心理描写が光りまくってる。また、どこかとぼけてる智花との掛け合いが絶妙で、話の後半、かなり奇天烈な状態で会話する2人に笑みがこぼれた。殺人事件の話なのに。鳥越が最大に追い詰められるポイントもほかで見たことない奇想で思わずうなった。
ほかにも「陽奇館(仮)の密室」などタイトルからして引き込まれる短編が計5つ収録されている。楽しいミステリーを探しているならぜひ読んでほしい一冊だ。 (東京創元社 1980円)



















