本の森
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「痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学」牧野雅子著
「痴漢は犯罪です」のコピーを配したポスターが登場したのは1995年。このポスターは大きな反響を呼んだが、逆に言うと、それまで痴漢は犯罪と見なされていなかったということを示している。 本書は、ま…
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「戸籍が語る古代の家族」今津勝紀著
現行の戸籍は、戦前が「家」を基本単位としていたのを「夫婦」を基本単位に変更し、併せて華族、平民といった身分事項の記載も廃止された。しかし、事実婚、夫婦別姓、同性婚といった新しい動きに戸籍の記載がどう…
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「舌を抜かれる女たち」メアリー・ビアード著 宮崎真紀訳
本書のカバーには、オウィディウスの「変身物語」の挿話を題材としたピカソの絵が飾られている。トラキア王のテレウスが義理の妹のピロメラを犯している場面だ。細い線のみで描かれたエッチングだが、組み敷かれて…
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「われらみな食人種(カニバル)」クロード・レヴィ=ストロース著 渡辺公三監訳 泉克典訳
1997年9月、英国のダイアナ妃の葬儀において、弟であるスペンサー伯爵が弔辞で、残された2人の甥と自分は強い絆で結ばれていると述べた。著者はこれを枕に、ラドクリフ=ブラウンの母方オジの重要性に光を当…
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「証言 治安維持法」NHK「ETV特集」取材班著 荻野富士夫監修
2018年5月、治安維持法違反の罪に問われた人やその家族、支援者たちが、国による謝罪や賠償、実態調査を求める国会請願を行った。前年、テロ等準備罪が成立し、治安維持法との類似が指摘されていたさなかの行…
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「女たちのシベリア抑留」小柳ちひろ著
アジア太平洋戦争の敗戦後、満州、北朝鮮、樺太、千島列島からソ連とモンゴルの収容所に抑留された日本人はおよそ57万5000人。この抑留体験をつづったものに高杉一郎著「極光のかげに」、内村剛介著「生き急…
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「大きな字で書くこと」加藤典洋著
昨年5月16日、71歳で亡くなった文芸評論家・加藤典洋の遺著。加藤はパソコンを使う以前はB6判の400字詰め原稿用紙に小さい字で書いていたという。 パソコンに移行してからも小さいポイントの文…
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「宮沢賢治 デクノボーの叡知」今福龍太著
1921年1月23日、25歳の宮沢賢治は家出して上京するが、8月、妹トシの病気の知らせを受け急きょ、花巻に戻る。この半年余りの家出は賢治の大きな転換点とされ、以後、数多くの童話や詩が書かれていく。そ…
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「クモの奇妙な世界」馬場友希著
クモというと、何となく気味悪がられることが多いが、イメージばかり先行してその実態は案外知られていない。本書は、そうした「クモを知らない多くの方々に、クモに親しみを持ってほしいという願いを込めて」書か…
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「記憶する体」伊藤亜紗著
「幻肢痛」とは、手や足など体の一部を切断した人や麻痺(まひ)のある人が、存在しないはずの手や足をあたかもあるように感じ、その感覚に伴う激しい痛みのことだ。原因は「動くだろう」という脳が記憶している手や…
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「レンマ学」中沢新一著
21世紀もすでに20年目になり、AI(人工知能)が人類の知能を超える転換点、シンギュラリティー(技術的特異点)が到来するであろう2045年も射程圏内に入ってきた。シンギュラリティーに関しては否定的な…
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「彼岸の図書館」青木真兵、海青子著
奈良県東吉野村。周囲は一面の緑で山を縫うようにして細い道路が走り、その道路沿いを流れる川の向こう岸に「人文系私設図書館 ルチャ・リブロ」がある。「こんな山深いところに図書館?」と驚かされるが、本書は…
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「ナウシカ考」赤坂憲雄著
傷ついた王蟲(オーム)の子どもとともに猛り狂う王蟲の群れの中に身を投じ、王蟲の金の触手に癒やされて蘇る青い衣の少女戦士――アニメ版「風の谷のナウシカ」は、崇高な自己犠牲を高らかにうたって幕を閉じる。…
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「なぜならそれは言葉にできるから」カロリン・エムケ著 浅井晶子訳
激しい粛清の嵐が吹き荒れる中、レニングラードの刑務所に収監されたロシアの詩人、アンナ・アフマートヴァは、彼女が詩人であると知っていた青ざめた唇の女性からこう囁かれた。「じゃあ、あなたがこれを言葉にし…
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「タネの未来」小林宙著
2018年4月、稲、麦、大豆等の主要作物の種子開発を地方自治体に委ねることを定めた「種子法」が廃止され、民間企業の参入が認められた。続いて農家による種子の自家増殖の制限を強めようとする「種苗法」の改…
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「クオーレ」デ・アミーチス著 和田忠彦訳
「アペニン山脈からアンデス山脈へ」――アニメでもお馴染みの「母をたずねて三千里」の原題だ。本書にはその原作が収められている。クオーレ(クオレ)という本の名前は知っていたが、子どもを題材とした悲しい物語…
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「ヒトラーの時代」池内紀著
去る8月30日、ドイツ文学者の池内紀さんが亡くなった。78歳だった。池内紀の名前を知ったのは、法政大学出版局から出ていた「カール・クラウス著作集」の第9・10巻「人類最期の日々」の訳者としてだったと…
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「絶望の林業」田中淳夫著
近年、「林業の成長産業化」ということがいわれている。日本の林業というと、専業従事者が高齢化し後継者不足、森林面積は減少傾向……。そんな斜陽産業の印象があった。 ところが今、木材自給率は上昇し…
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「原子力時代における哲学」國分功一郎著
「いかなる仕方で、この途方もないエネルギー(原子力)が――戦争行為によらずとも――突如としてどこかの箇所で檻を破って脱出し、いわば『出奔』し、一切を破壊に陥れるという危険から人類を守ることができるのか…
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「お砂糖とスパイスと爆発的な何か」北村紗衣著
書店の店頭でこの本を目にしたとき、タイトルに引かれた。これはイギリスの古い童話の歌詞、「女の子って何でできてるの? お砂糖とスパイスとあらゆるすてきなもので」からとったものだそうだ。でも、著者はこの…