「女であるだけで」ソル・ケー・モオ著 吉田栄人訳

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 ラテンアメリカ文学といえば、ガルシア・マルケス、バルガス・リョサ、オクタビオ・パスといった名前が浮かぶが、いずれもスペイン語を母語とし、作品もスペイン語で書かれている。本書は、〈新しいマヤの文学〉というシリーズの一冊。このシリーズは、メキシコのユカタン・マヤの地で生まれた、マヤ語で書かれたマヤ文学の作品を厳選したもので、ラテンアメリカ文学に新たな光を与えている。

 インディオ女性のオノリーナは夫を殺害したとして20年の禁錮刑を科されたが、恩赦により5年の刑務所暮らしで自由の身になった。オノリーナはツォツィル族(マヤ語族の一言語ツォツィル語を話す民族)の家に生まれ、母が死んでからは家事をすべて引き受けていたが、あるとき父親に売られてしまう。相手は同じ先住民のフロレンシオ。フロレンシオは札付きのワルで、オノリーナを自分の所有物として一切の口答えを許さず、日常的な暴力で押さえ付け、揚げ句は友人にオノリーナの体を売りさえした。彼女は6回妊娠したが生きているのは2人だけ、妊娠中にフロレンシオに腹を蹴られて流産したことも。最初は服従するだけだったオノリーナも徐々に自分の立場を理解するようになり、ある日その怒りが爆発したのだ。

 解放後、記者会見に臨んだオノリーナは、同じ罪を犯していながら、先住民ゆえに恩赦を受けたことについてどう思うかという記者の質問にこう答える。自分が親に売られたり、夫にひどい暴力を振るわれたときに、あんたのいう法が何をしてくれたのか、と。「それにあたしたちインディオの女は二重苦さ。インディオで女なんていったら不幸の塊さ」「あたしが自由になれたのは、あたしがインディオだからなんかじゃない。自分の罪を少しでも償うための手段をあたしに見いだしたからこそ、あたしは自由になれたんだ」――。

「オノリーナは女であるという不幸を語る上でのイコンとなった」とあるが、本書も今後のフェミニズム文学を語る上での重要なイコンとなった。 <狸>

(国書刊行会 2400円+税)

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