「ワンダーウーマンの秘密の歴史」ジル・ルポール著、鷲谷花訳

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 ワンダーウーマンはスーパーマン、バットマンと並ぶDCコミックスのスーパーヒーロー。2017年に公開された映画「ワンダーウーマン」は全世界興行収入8億ドルを超える大ヒットとなるなど、いまだ根強い人気を誇っている。古来、女性だけが暮らす島からアメリカへやって来たワンダーウーマン。普段は米軍情報部の秘書ダイアナ・プリンスに身をやつし、いざというときワンダーウーマンとなって活躍するスーパーヒーローだが、本書が明かすのはこのコミックスの誕生に関わる人たちの「秘密」である。

 主軸となる人物は3人。まず心理学者で「嘘発見テスト」の開発者の一人である原作者のウィリアム・モールトン・マーストン。その妻のサディ・ホロウェイは20世紀初頭のフェミニズムの洗礼を受け、夫と共に心理学を学び、夫の不遇時代には家計を支えた。

 3人目は産児制限運動の活動家として有名なマーガレット・サンガーの姪、オリーブ・バーン。バーンが常に着けていたブレスレットはワンダーウーマンの銃弾をはね返す黄金のブレスレットに投影されている。マーストンは当時としては珍しく女性の権利を重視する開明的な考えの持ち主だったが、セックスに関しても先鋭的で、妻のホロウェイとバーンを同じ家に住まわせ、それぞれとの間に子供をもうけて同居していた。ただし、バーンは子供たちに実の父親については隠し通していた。

 実はマーストン家にはもう一人、女性参政権と緊縛の信奉者、マージョリー・ハントリーという同居人がいた。ハントリーとマーストンの間には肉体関係はなかったようだが、この男1女3の変則的な共同生活の内実については家族の「秘密」とされてきた。著者はその経緯と実態を膨大な資料を渉猟しつつ暴いていく。

「ワンダーウーマン」というコミックスが、20世紀初頭のフェミニズム運動に深く関わった人たちから生み出されたのだということがよく理解できる。本書の読後では、近く公開される「ワンダーウーマン1984」も従来とは違った見方ができるだろう。 <狸>

(青土社 3200円+税)

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