本の森
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「分解の哲学 腐敗と発酵をめぐる思考」藤原辰史著
開巻劈頭、「掃除のおじさんに」という献辞があるが、序章を読んで納得。著者がかつて住んでいた集合住宅には、毎朝、掃除のおじさんがやってきていた。ゴミ捨て場の整理が終わると各階の共用通路を掃除する。デッ…
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「世界戦争の世紀20世紀知識人群像」桜井哲夫著
本書冒頭に驚くべき数字が紹介されている。16世紀以降の500年間の戦死者の合計は4620万人で、そのうち20世紀の戦死者が全体の65・8%、50年までの前半だけでも57・6%を占める。第1次と第2次…
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「解読 ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』」橋本努著
先の国連の気候変動サミットで、スウェーデンの16歳の少女グレタ・トゥーンベリが、温暖化対策に手をこまねいている各国の首脳に対して、温暖化による気候変動で生態系が崩壊しつつある現在、「あなた方が話すこ…
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「現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。」吉岡乾著
“フィールドワーク”という言葉には、なんとはなしにロマンチックな響きがある。見知らぬ地に入り込み、現地の人びとに接してその独自の文化を観察し分析する……。 しかし、実際の現場はそんな甘いもので…
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「親子で楽しむ和算の図鑑」谷津綱一著
江戸時代の和算は、世界的にもかなり高度なレベルに達していたといわれている。伊能忠敬が精密な日本図を作成できたのも、算聖といわれた関孝和の流派、関流のメンバーたちの数学的な支援があってのことだといわれ…
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「グスコーブドリの太陽系」古川日出男著
宮沢賢治の「グスコーブドリの伝記」は、賢治の農民への献身と自己犠牲による救いが描かれた童話だ。冷害に苦しむ農民たちを救うため、主人公のブドリが火山を人為的に爆発させて温室効果をもたらすというもの。 …
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「世界の書店を旅する」ホルヘ・カリオン著 野中邦子訳
ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープ主演の映画「恋におちて」は、クリスマスイブの夕刻、ニューヨークの老舗書店リゾーリのレジの前でぶつかった男女の本が入れ替わってしまうところから物語が始まる。メグ…
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「記者と国家」西山太吉著
立法・行政・司法の3つの権力に並び、マスメディア、ジャーナリズムは第4の権力といわれてきた。しかし、現況の新聞・テレビの報道ぶりを見ると、他の3つの権力と相対峙するのではなく、核心に迫るのを避けてい…
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「赤ちゃんはことばをどう学ぶのか」針生悦子著
2020年度から小学校の英語教育の大幅な改革が予定されている。これまで5、6年生が「活動」として英語を学んでいたのが3、4年生に引き下げられ、5、6年生は英語が正式な教科となり、「聞く」「話す」に加…
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「酒天童子絵巻の謎」鈴木哲雄著
鬼退治といって、すぐに思い浮かぶのは桃太郎、一寸法師だろうが、同じ御伽草子の中の大江山の酒天(呑)童子の話もまた鬼退治ものとして昔からよく知られている。桃太郎、一寸法師に関しては、「小さ子」という観…
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「脱毛の歴史」レベッカ・M・ハージグ著、飯原裕美訳
季節柄、電車内で美容クリニックの脱毛の広告が目立つ。アメリカ人女性がムダ毛処理に年間1万ドル以上のお金と1カ月以上の時間を費やしているという(2008年)。とはいえ、大多数の女性が首から下の体毛を日…
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「境界の日本史」森先一貴、近江俊秀著
西日本と東日本の文化的な差違は、現在でもよく取り上げられる。食べ物でいえば、西は青ネギ・東は白ネギ、西は薄口醤油・東は濃い口醤油、西のところてんは黒蜜・東は酢醤油等々、そのほか、西は母系的なムラ社会…
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「新訳 夢判断」フロイト著、大平健編訳
名前だけ知っていても中身を読んだことがないというのは古典の常だが、この「夢判断」も完読した人は少ないのではないか。空を飛ぶ夢を見ると欲求不満だとか、ステッキは男性器の象徴だとか、断片的な知識のみが流…
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「本にまつわる世界のことば」温又柔、斎藤真理子、中村菜穂、藤井光、藤野可織、松田青子、宮下遼著 長崎訓子絵
本にまつわる成語には「本を貸すバカ、戻す大バカ」なんてのがあるが、さて、他の言語の本にまつわる言葉というと――すぐには出てこないが、本書の目次を開くと、ロシア語、アラビア語、中国語、フランス語、英語…
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「皮膚はすごい」傳田光洋著
前著「皮膚は考える」というタイトルを目にしたとき、単純に比喩と思ったのだが、読み進めていくうちに文字通りの意味だとわかった。皮膚表皮は、受精卵からの発生段階において中枢神経と同じ外胚葉由来の器官であ…
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「大英帝国は大食らい」リジー・コリンガム著 松本裕訳
現代はグローバル経済の時代といわれるが、個別あるいはあるブロック内での経済活動が世界規模に拡大していったのは大航海時代以降の帝国主義がその端緒といっていいだろう。なかでも7つの海を制したといわれる大…
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「この星は、私の星じゃない」田中美津著
ウーマンリブを牽引したカリスマ的存在として活躍していた著者は1975年にメキシコに渡り帰国後、鍼灸師となる。「あの田中美津が鍼灸師になったんだって」と戸惑いと驚きを含んだ話が伝わってきたのを覚えてい…
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「測りすぎ」ジェリー・Z・ミュラー著 松本裕訳
いまや、ツイッターやインスタグラムのフォロワー数がその人の人気の大きな指標となっている。以前であれば、自身が発信した情報に対してどんな反応があるのかは見定めにくかったのだが、現在のSNSではそれが即…
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「書物の破壊の世界史」フェルナンド・バエス著、八重樫克彦、八重樫由貴子訳
ホロコーストとは、ナチス政権が、第2次世界大戦中に行ったユダヤ人などの組織的な大量虐殺を指す。同政権はそれに先立ち、何百万冊もの本を破壊する“ビブリオコースト”を行っていた。まさに、ハインリッヒ・ハ…
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「社会学史」大澤真幸著
岩波新書の内田義彦著「社会認識の歩み」が刊行されたのは1971年。高度経済の末期で公害が大きな社会問題となった時代である。この中で内田は、公害を社会科学の問題としてとりあげることができなかったのは、…