ローマ教会が思想統制で禁書目録を作成

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「禁書 グーテンベルクから百科全書まで」マリオ・インフェリーゼ著、湯上良訳/法政大学出版局 2500円+税

 今年は宗教改革の開幕を告げるルターの「95カ条の提題」が公開されてからちょうど500年。その「提題」はわずか14日ほどでドイツ全土に行き渡り、その1517年から1530年の間に、「提題」を含むルターの著作は30万部以上広まったという。

 これほど急速な普及を可能にしたのには、その70年前に始まったグーテンベルクの印刷術が大きくあずかっている。そこで黙っていないのが、批判の矢面に立たされたカトリックの総本山たるローマ教会だ。21年、教会はルターを破門し、その著作は焚書(ふんしょ)に処され、同時に書物に対する検閲の強化が図られた。

 本書は、サブタイトルにあるように、グーテンベルクの印刷術が広まった16世紀半ばからフランス革命が起こる18世紀末までの、イタリアを中心とするヨーロッパ各国の書物の管理・検閲=思想統制の実情を跡づけたもの。ローマ教会による思想統制は宗教に関するものだけでなく、科学や文学など広範にわたる「禁書目録」を作成し、弾圧を強めた。

 禁書に指定された著者には、ボッカチオ、ラブレー、コペルニクス、デカルト、ガリレイなどがいる。

 ボッカチオの「デカメロン」は、検閲官の手により修道女を伯爵夫人に、尼僧を貴族の娘、修道士を教師に変えられ、皮肉な隠喩や反聖職者的な表現を大幅にカットしてしまったというから呆れてしまう。

 むろん、検閲される側も黙ってはいない。あらゆる手段を使い検閲の手を逃れて、できる限り多くの書物を流通させるべく工夫を凝らす。その双方の熾烈な争い、つまりは表現の自由の獲得を巡る歴史が、本書の中軸をなしている。

 つい先頃、ジョージ・オーウェルの「一九八四年」がリバイバルブームになった。近年の全体主義的な言論統制に対する不安がその一因と思われるが、本書もその処方箋のひとつとなるだろう。

<狸>

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