後世の加筆分を徹底検証した大著

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「新約聖書 訳と註 7 ヨハネの黙示録」田川建三訳著 作品社 6600円+税

 新約聖書の「ヨハネの黙示録」はデューラーをはじめとする多くの画家たちが画題として取り上げ、中に登場する「蒼ざめた馬」をタイトルにしたアガサ・クリスティとロープシンの小説も有名。

 それらにイメージされるのは、最後の審判において多くの人々が永遠の劫罰(ごうばつ)を与えられるというもので、その惨劇の模様が激越な筆致で描かれている。

 ところが本書において、そうしたイメージは本来の著者のものではなく、後から他の人間によって書き加えられたものだということが証明されている。この説は19世紀から20世紀初めにかけて新約聖書学者の間で論議されていたのだが、その後、ふたをされてきた。田川は、黙示録本文のギリシャ語の特質から著作の目的と主題・質等々を徹底的に検証し直し、新たにこの結論に至った。そして書き加えられた激越な文章を除いてみると、これまでとは全く異なる黙示録が立ち現れてきた。この世界初となる今回の論証は精緻を極め、本文40ページに対して800ページ以上の注が施されている。

 本書は、新約聖書の個人訳(全7巻全8冊)という十数年を費やした大業の最終巻だが、いずれの巻にも膨大な注が付され、これまでの日本語訳聖書における誤訳、ドグマ的な改ざんなどを鋭く指摘している。その際、可能な限り原テキストに当たり、古今の異論・異説にも言及しながら自らの説のよって来るゆえんを、委曲を尽くして説いていく。また、たとえ畏友の学者であっても容赦なく批判し、学問という場に情や忖度(そんたく)などを持ち込んではいけないという確固たる信念が貫かれている。ここにあるのは、論文の盗用だとか実験結果の捏造だのといったエセ学問からはおよそかけ離れた、真の学問の厳しさである。

 読み通すのはなかなか大変な大著だが、その行間からあふれてくる「本当の学問というのは、こういうものですよ」という声を聞き取って欲しい。<狸>

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