「世界の良心」チョムスキーの現代アメリカへの批判

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「アメリカンドリームの終わり」ノーム・チョムスキー著 寺島隆吉、寺島美紀子訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン 1800円+税

 ノーム・チョムスキーといえば、変形生成文法理論を提唱した言語学者であり、反戦運動や市民運動に積極的にかかわる先鋭的な思想家としても知られている。

 また第2次安倍内閣発足後半年の時点で、安倍晋三をウルトラナショナリストと断じ、その政権の危険性をいち早く指摘したことでも話題になった。そのチョムスキーも89歳だが、本書にはそのかくしゃくぶりが遺憾なく発揮されている。

 本書の一部は、チョムスキーへのインタビューによるドキュメンタリー映画「アメリカン・ドリームへのレクイエム」として2015年に公開されているが、本書はそれを基に再構成したもの。ごく限られた層に富と権力が集中している現代アメリカへ向けての批判であり、政治、経済、教育、環境問題といった広範囲の問題について歯に衣着せぬ鋭い舌鋒で語られている。

 そこには、「貧乏な家に生まれても刻苦勉励すれば豊かになる」という「アメリカンドリーム」を失ってしまった祖国への深い憂いと、民主主義を踏みにじるような政策を次々に繰り出している歴代政権とその後ろ盾となっているエスタブリッシュメント層に対する強い憤りがある。

 無論、これは対岸の火事ではなく、トランプ政権にすり寄っている日本も同様の危機を抱えているのであり、チョムスキーの批判の矢はそのまま日本にも突き刺さってくる。

 といっても、ここでチョムスキーが語っていることは決して過激でも偏向しているわけでもない。働く者がきちんと賃金を得ることができ、自由にものを言え、環境破壊を押しとどめるような世の中にしようという、極めてまっとうなことを言っているだけだ。それを痛烈と感じてしまうのは、ひとえに、こうしたまともなことを言う知識人が少なくなっているからにほかならない。チョムスキーが「世界の良心」と評されるゆえんである。

<狸>

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