現代にもつながる縄文ネットワークの広がりを検証

公開日: 更新日:

「縄文の思想」瀬川拓郎著/講談社 840円+税

 いち早く縄文文化の特異性を指摘したのは岡本太郎だったが、以来、何度かの“縄文ブーム”といわれる縄文文化への関心が高まった時期があり、近年ふたたびその兆しがあるという。とはいえ、ひと口に縄文といっても、そのイメージは茫洋としている。にもかかわらず、なぜわれわれは縄文への憧憬を抱くのか?

 そんな疑問に答えてくれるのが本書である。著者は考古学の成果と神話・伝説の分析を通して、「縄文人の生き方を律した思想、あるいはかれらの他界観や世界観といった、生々しい観念の世界へ」分け入っていく。

 その際に指標となるのは海の生業を主とする「海民」である。北海道から南島にかけて列島の海辺に住む人びとは、弥生時代から古墳時代(一部は現代)まで、縄文人の形質的特徴を色濃くとどめ、縄文の文化や形質を保ってきた。彼らが築き上げた「縄文ネットワーク」は予想以上に広範・多岐にわたる。その証左となるのは、アイヌの神話・伝説の中に古代海民の神話・伝説と共通のモチーフがあり、それはまた記紀神話にも取り入れられていることだ。

 それらを検証した上で著者が抽出した縄文の思想とは、「商品交換への強い違和感、贈与への執着、分配を通じた平等、強制や圧力の拒否、他者や土地とのゆるやかなつながり、中心性を排除した合意形成、外部に対する強い暴力性」。要するに、農耕と商品経済を基盤に定住する常民とは価値観を異にするものだ。その思想は、大陸から渡来した弥生文化に駆逐されつつも周縁に生きる場を求め、芸能、占いなどの分野で技能を生かした「まれびと」たちに連綿と受け継がれていった。

 なるほど。国家の圧力が強まり、強固な資本主義経済の網の目にからめ捕られて息苦しくなりつつある今だからこそ、縄文への憧憬がふたたび立ち上がってくるのだろう。
〈狸〉

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    2度不倫の山本モナ 年商40億円社長と結婚&引退の次は…

  2. 2

    日本ハムFA松本剛の「巨人入り」に2つの重圧…来季V逸なら“戦犯”リスクまで背負うことに

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    「ばけばけ」好演で株を上げた北川景子と“結婚”で失速気味の「ブギウギ」趣里の明暗クッキリ

  5. 5

    「存立危機事態」めぐり「台湾有事」に言及で日中対立激化…引くに引けない高市首相の自業自得

  1. 6

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  2. 7

    (2)「アルコールより危険な飲み物」とは…日本人の30%が脂肪肝

  3. 8

    西武・今井達也「今オフは何が何でもメジャーへ」…シーズン中からダダ洩れていた本音

  4. 9

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  5. 10

    高市政権の物価高対策はパクリばかりで“オリジナル”ゼロ…今さら「デフレ脱却宣言目指す」のア然