「本にまつわる世界のことば」温又柔、斎藤真理子、中村菜穂、藤井光、藤野可織、松田青子、宮下遼著 長崎訓子絵

公開日: 更新日:

 本にまつわる成語には「本を貸すバカ、戻す大バカ」なんてのがあるが、さて、他の言語の本にまつわる言葉というと――すぐには出てこないが、本書の目次を開くと、ロシア語、アラビア語、中国語、フランス語、英語、韓国語、バスク語、アイスランド語、ペルシャ語、トルコ語……と、実に多彩な言語が並んでいる。とはいえ、各言語の上にカタカナ書きされている言葉を見ただけでは何を意味するのか見当がつかない。「カツジバナレ」「ツンドク」といった日本語以外で分かるのは英語の「ドッグイヤー」くらいか。犬の耳に似た、ページの隅を折り曲げた三角形の部分だ。

 本書はそうした本にまつわる各言語の言葉を取り上げ、作家や翻訳家がその言葉をめぐるショートストーリーとエッセーをつづり、それに「武士道シックスティーン」や「億男」の装画で知られる長崎訓子が絵を付けるという仕立て。例えば、読みだすと途中でやめられないほど面白い本を指す英語の「ページターナー」にはレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジとロック・クイーンのティナ・ターナーが誘拐されるという日刊紙の見出しを頭に置き、以後事件の経過を見出しで追っていくという趣向(藤井光)。

「ナナメヨミ」の項では「私の息子は、ななめに読む才能があった」という文章で始まり、その才能を持った息子の希有(けう)な体験がつづられていく(松田青子)。見開きのページの真ん中には、首をかしげた青年が平行四辺形の上で飛ばし読みしている絵が置かれ、平行四辺形に沿うように文字がナナメに組まれている。

 おまけに、各話には関連する文献が示され、巻末のその本の解説が記されているのだからぜいたく極まりない。各言語特有の逸話も満載で、ページを繰りながら世界旅行を楽しめる。 <狸>

(創元社 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  2. 2

    萩生田光一氏「石破おろし」がトーンダウン…自民裏金事件めぐり、特捜部が政策秘書を略式起訴へ

  3. 3

    参政党は言行一致の政党だった!「多夫多妻」の提唱通り、党内は不倫やら略奪婚が花盛り

  4. 4

    【夏の甲子園】初戦で「勝つ高校」「負ける高校」完全予想…今夏は好カード目白押しの大混戦

  5. 5

    早場米シーズン到来、例年にない高値…では今年のコメ相場はどうなる?

  1. 6

    落合博満さんと初キャンプでまさかの相部屋、すこぶる憂鬱だった1カ月間の一部始終

  2. 7

    打者にとって藤浪晋太郎ほど嫌な投手はいない。本人はもちろん、ベンチがそう割り切れるか

  3. 8

    伊東市長「続投表明」で大炎上!そして学歴詐称疑惑は「カイロ大卒」の小池都知事にも“飛び火”

  4. 9

    “芸能界のドン”逝去で変わりゆく業界勢力図…取り巻きや御用マスコミが消えた後に現れるモノ

  5. 10

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も